シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP座談会「求め求められる企業と人材」(3)

ビジネス特集

2008年7月7日

座談会「求め求められる企業と人材」(3)

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採用と定着のポイント1

コミュニケーション

 

永井

確かに、求職者が希望する給与が、在籍社員の給料と合わないために採用できなかったことがありますね。

 

大橋p2b

在籍社員の給与水準を無視して、求職者の希望額を払うことは難しいです。時々、求職者の中には、この経験でこの給料?と驚くこともあります。もちろん会社として、世間と比較して遜色のない賃金水準を維持したいと考えていますので、今年4月には賃金テーブルの改訂を行いました。

 

渡部

シンガポール政府は、基本給を押さえて手当を厚くするように、と企業に奨励していますが、今年1月のある調査によると、シンガポール人が仕事を決める際には、基本給の高さで決めるとありました。福利厚生やボーナスの高さは二の次のようです。

 

福田

私が出会う求職者の方々は、給与より、やりがい、人生における仕事の関わり方に迷いが生じて転職を決心するケースが多いように思います。15年程この業界にいる立場から見て、景気の如何に関わらず、人事システムや制度といったハード面より、メンタルな心の部分の問題は普遍的な転職の動機といえます。

永井さんが先ほどマネジメントのスタイルを「いい加減」とおっしゃいましたが、その関わり方に社員の方々は心地良さを感じ、それが風通しの良さとなって転職を未然に防ぐ雰囲気を作っているのでは、という印象を受けました。職場でのコミュニケーションやメンタルな関わりに、社員は、自分のキャリアや人生を照らし合わせますから。

 

大橋

以前、ローカルスタッフに、会社に求めるものは何かとたずねたことがあります。彼は、若い層は魅力的な処遇と教育の機会、ある程度のキャリアのある層は、仕事のやりがいや、会社から自分が必要とされているか、またコミュニケーションが十分に取れているかを重視するとのことでした。日系企業のネックは、言葉の壁で、欧米企業に比べると伝えることが苦手かもしれません。給与は結局会社の体力にもよりますが、コミュニケーションは日々のことで、取り組み次第ですよね。確かに大事なことです。

 

渡部

先ほどの調査の結果で、まさに2番目は,上司からの評価だそうです。つまり、上司から正当に評価され,それが伝わっていれば定着も促すわけですよね。

 

川村

コミュニケ―ションといえば、採用と定着、両方の場面において重要です。過去の例で、採用担当者から求職者への質問が、何ができる、できないのみに集中し、その求職者の入社意欲を失わせるというケースがありました。現実的に仕事がどれ程できるのかを一方的に審査する企業として当然の質問ですが、シンガポールにおけるその会社のビジョンやトップの考え方を知ることで、求職者は会社の立ち位置、その中で自分のキャリアパスがどう用意されているかを理解する。それは会社選びの大事なポイントです。仕事の内容や給与面において外資系企業が相対的に優れているとは言えないものの、求職者が外資系を好む理由の一つに、その点のアピールが徹底していることが挙げられます。

また、トップダウンで本社のビジョンや年度計画を知らせることも重要ですが、日々の自分の仕事やサポート業務が上司の仕事をどのように支えたかがわかるような日常のコミュニケーションも大切です。ローカルスタッフとの間には言葉の壁を感じるかもしれませんが、少しでもビジョンの共有、日々の仕事がどう全体に貢献しているのか伝えるよう努めることで定着もはかれる。この辺りは企業全体として努力できる部分だと思います。

 

採用と定着のポイント2

中核マネジャーの重要性

 

AsiaX

コミュニケーションが人材が定着するためのポイント、というお話には納得です。企業研修を提供する立場からはどうご覧になりますか。

 

サンディp2d

コミュニケーションについては、研修においても様々な課題が浮かび上がるところです。言葉の壁を理由に、背中を見てついてこい的な発想は問題で、明確な指示を出し、言葉にしてほめることも大事です。また、企業が社員のためにしていることを知らせることも必要です。海外の日系企業では、比較的アウトプットばかりを求めてインプットがないともいわれがちです。

15年程前は、日本人駐在員が主に経営判断とマネジメントをしていたのが、現在では現地化が進み、補助人材だったローカルスタッフが中核人材としてマネジメントを担っている。人材が定着しないひとつの理由に、その中核マネジャーが育っていない、抜けているという現状があります。日本企業はOJTに頼って人を育てる傾向がありますが、ビジネス環境がより複雑な現在のマネジャーには、OJTで学ぶ範囲以上のスキルが求められているのは明白です。その上、コミュニケーションが乏しくインプットもないという状態になると、その部下は、自分がどう評価されているかもわからず不安になります。企業側は、ビジョンを語ると共に、個々に期待することとキャリアパスを明確に伝える必要があるのです。人間は行き先の明示のないままに歩けと言われるのが一番不安なものです。

 

渡部

キャリアに伴う経験と学習というのは、社員にとってボーナスと同じくらい大事なものといえるでしょう。

 

川村p2c

外資系企業では、マネジャーに昇格したらマネジャー研修を受講するというのが一般的です。初めて部下を持つということ、またトップのメッセージや企業方針を部下とのコミュニケ―ションを通して伝えていくのがマネジャーの任務であるということを学んでもらうのです。企業によっては、職人気質でコミュニケーションがやや苦手とされるIT関係のマネジャーに特化して研修するところもあります。また、評価システムがあっても形骸化していては意味がありません。部下にとって、5年、10年先の企業の方向性を語られても、やはり1、2年後の自分の立ち位置が気になります。実際、過去の成績の如何に特化して、一年後やこの先のキャリア目標についての話がない企業が多いようです。個人努力への期待と、研修等を含む会社の具体的なサポートが伝えられることで、コンパスが示されて評価の後のキャリアパスが見えてくる。それが定着に繋がると思うのです。

 

サンディ

システムというのは、今日入れて明日から効率化しますが、それに反して、研修は、繰り返し環境を巻き込んで一定期間行われることで効いてくる。やはりそこまで会社が長い目で見られるかどうか、体力が必要になります。現地法人では、よりシビアにROI(投資利益率)が期待されることもあり、日本では良い研修を取り入れている企業でも、当地では実施できないケースもあるようですが、研修という手法を是非活用して頂きたいですね。

 

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.125(2008年07月07日発行)」に掲載されたものです。
文=桑島千春

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