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危うし!日系企業の常識・非常識

2019年11月25日

日系企業の人事の仕組みは世界で遅れている!?

グローバル人事・組織開発のプロが斬る! 次世代のアジア地域における、これからの強い日系企業とは?

かつては世界から注目された日本の人事制度

 「日系企業の人事の仕組みは遅れてるからなあ」これは、シンガポールの人事関係者の集まりでシンガポール人に言われた言葉です。高度経済成長期に世界中から注目を浴びた日本の人事の仕組み。当時、世界各国のMBAコースでは、日本企業に関する研究や日本の人事システムについて学ぶ気運が非常に高まりました。
 

・なぜ、こんなに真面目に勤勉に日本人は働くのか?
・成果評価や実力主義ではなく、年功序列の仕組みなのに社員のやる気が落ちないのはなぜか?
・仕事の後の” 飲みニケーション” って何?
・新入社員を一括採用?
・新入社員研修という仕組みは素晴らしい!
・社食や社員旅行があるというのがすごい
・日本企業の三種の神器(終身雇用、年功序列、企業別組合)の詳細を知りたい!
 
など、海外からすると不思議なことばかりですが、日本企業の人事の仕組みは当時の彼らの眼には画期的に映ったようで、世界中からもてはやされました。
 

変化する人事評価制度、現代のトレンドとは

 時は20~30年経ち、世界中の人事の仕組みは、日々変化を続けています。例えば、これまでの人事評価の仕方は、期末に社員をABCDなどに相対的に振り分ける、いわゆるランク付けをするレーティング評価が一般的でした。しかし現在は、アメリカを中心にノーレーティング (No Rating) という評価制度が一般的になり、GEやマイクロソフト、アドビシステムズ、アクセンチュアなどの大手企業が続々とこの制度を導入しています。何でもアメリカ企業の総収入上位500社を表す、フォーチュン500の半数ほどの企業が導入しているとか。
 
 成果評価の仕方も、半年や1年のスパンで目標を立てて、その達成度で評価するのが一般的ですが、最近では環境の変化が激しく、そのぐらいのスパンでは状況が変わりすぎて、目標が意味をなさなくなってきています。固定的な目標設定では、半年や1年の間に状況が変わった時に、その状況に応じて柔軟に対応しようという意識がなくなり、イノベーティブな考え方も起きにくくなるのです。そこで、アメリカではここ数年、「1on1ミーティング」を導入する企業が増えています。週に1回、もしくは2週間に1回、定期的に、上司と部下による目標のすり合わせや戦略作り、また懸念点について自由に話し合うのです。このプロセスを通して、上司が全般的に評価をする人事制度に変化してきています。
 

人事評価とは何のためにあるのかを改めて考える

 そもそも人事評価制度は、何のために存在しているのでしょうか?給与や賞与額を決めるため?もちろん、それもあるでしょうが、それ以外には何のためでしょうか?
 
 人事評価制度は、「会社から、こういう行動をして、こういう成果を出す人を求めていますよ、逆にそうでない人はうちの会社では評価しませんよ」というメッセージであり、それに伴うフィードバックは「社員に、会社が期待している方向でこれからも仕事を頑張ろうと思ってもらったり、社員が成長するため」だと思っています。
 
 あなたの会社では、人事評価のプロセスを通して、社員はやる気になったり、成長していますか?
 
 人事評価制度は、あくまで「手段」です。最適な手段は、「目的・目標」と「状況・環境」によって決まります。一方、日本企業では「昔からこうやってたから・・・」と、型や形式に囚われる傾向がありますが、高度経済成長時に比べ市場環境や状況は、大幅に変化しています。ひと昔前に世界中からもてはやされた「人事の仕組み」の成功体験の囚われから脱却し、「目的・目標」と「状況・環境」を踏まえて、新たな人事の仕組みを考えていく時に来ているのではないかと思います。
 


森田 英一(もりた えいいち)
beyond global グループ President & CEO

大阪大学大学院卒業後、外資系経営コンサルティング会社アクセンチュアにて人・組織のコンサルティングに従事。その後シェイク社、beyond global社を創業。日系企業のグローバル化支援事業を手掛ける。社員の主体性やリーダーシップを引き出す管理職研修や組織開発ファシリテーションに定評がある。日本全国6万人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2013」(主催:日本の人事部 後援:厚生労働省)の教育・研修部門で最優秀賞受賞。主な著作「一流になれるリーダー術」(明日香出版)「会社を変える組織開発」(PHP新書)など。日経スペシャル「ガイアの夜明け」「とくダネ!」などメディア出演多数。シンガポール在住。シンガポール在住。
人と組織の可能性を拓く beyond global グループ(シンガポール・タイ・日本)
グローバルリーダーシップ研究所
Email: info@beyond-g.com

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.352(2019年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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