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シンガポールにおける損害保険

2019年11月25日

シンガポールの海上保険の歴史と概要

シンガポールの損害保険事情 第3回

 シンガポールの海を眺めていると、海上を行き交う多くの船を目にします。特にリゾート島のビーチの目の前を大型船が通りゆく光景は、貿易立国シンガポールならではかもしれません。本稿では、貿易に欠かせない「物流」と「海運」の観点からシンガポールの特徴を見つつ、世界の貿易を支える海上保険の歴史と概要についてご紹介します。
 

貿易立国シンガポール

 シンガポールは、世界の海上交通の要所であるマラッカ海峡に近く、その地理的優位性と、国を挙げた港湾強化策によって、国際貿易の中継地としての地位を確立しています。2018年の港湾別コンテナ取扱個数は世界第2位ですが、現在進められているトゥアス港への港湾移転計画が完了した暁には、年間のコンテナ取扱個数は世界最大規模になると言われています。

 

 また、シンガポールは、シンガポール船籍(注2)を持つ船への税制優遇制度などを導入しており、世界有数の海運国としての顔も持っています。2018年の世界の国別貨物輸送能力(注3)の統計によると、シンガポールの船会社が所有する船の貨物輸送能力を全て合わせると、世界第5位の規模になります。


 
(注1)Twenty-foot Equivalent Unitの略で、貨物の容量を示す単位です。長さ20フィートのコンテナ1個分を1TEUといいます。
(注2)船の国籍を意味します。船は、船籍国の法律によって保護を受けています。
(注3)ここでは載貨重量トンを指します。貨物を重量として何トン積めるかを示す数値です。
 

世界の貿易を支える海上保険

 こうした貿易で取引される貨物や、貨物を輸送する船を守るのが「海上保険」です。物流業や海運業とは関わりの深い保険ですが、一般的には馴染みが薄い保険かもしれませんので、その歴史を紹介しながら概要を説明します。
 

中世ヨーロッパにおける冒険貸借

 海上保険は、損害保険の中で最も長い歴史を持っており、その起源は12~13世紀にかけて地中海沿岸都市で行われていた冒険貸借にあると言われています。冒険貸借とは、航海の危険を負担する機能を備えた貸付制度のようなもので、資本家が船主に資金を貸し付け、船主が無事に航海を終えた場合には元金と利息を受け取り、万が一航海が失敗した場合には、返済を免除するというものでした。その後、徐々に形を変えていき、14世紀後半にイタリアの商業都市で生まれた取引形態が現在の海上保険の始まりと言われています。
 

海上保険の種類

 海上保険は、貨物保険と船舶保険に大別することができます。
 

貨物保険


 原油や家電製品など、輸送される貨物を対象とする保険です。火災や破損、爆発など、貨物を取り巻くリスクによる損害をカバーします。
 

船舶保険

 原油などを輸送するタンカーやシンガポール沖でよく目にするコンテナ船など、船を対象とする保険です。転覆など、船を取り巻くリスクによる損害をカバーします。皆さんに身近な損害保険に例えると、自動車保険に似ています。
 

 
 貨物や船の事故といっても、なかなかイメージが湧かないかもしれませんが、2015年に中国の天津港で発生した爆発事故や、2012年にイタリア沖でクルーズ船が転覆した事故をご記憶の方もいらっしゃると思います。海上保険は、このような事故により生じる経済的損失をカバーしています。

 

高橋 英臣 / Hidetomi Takahashi
MSIG Holdings (Asia) Pte Ltd

神奈川県出身。2005年、三井住友海上火災保険(株)入社。船舶や海洋エネルギー開発に関わる保険の商品企画や営業などに従事。2019年4月、MSIG Holdings (Asia) Pte Ltd に赴任。同社は、三井住友海上火災保険(株)のアジア・オセアニア地域の損害保険事業を統括する地域持株会社であり、同地域の事業戦略・方針の立案、事業推進の支援・管理監督を行っている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.352(2019年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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