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シンガポールにおける損害保険

2019年10月25日

シンガポールにおける自動車事故の損害賠償

シンガポールの 損害保険事情 第2回

シンガポールで万一、自動車事故を起こした場合、相手への損害賠償額がどの程度になるかご存知ですか。本稿では、自動車事故の損害賠償水準(対人賠償・対物賠償)や自動車保険の種類について、シンガポールと日本との違いにも触れながらご説明します。
 

自動車事故の対人賠償

 シンガポールで自動車事故を起こし相手にケガをさせてしまった場合、損害賠償として、治療費、休業損害(働けない間の収入)および慰謝料を支払う必要があります。治療費および休業損害について妥当な実費を支払う点は日本と同様ですが、慰謝料はどうでしょうか。ここでは、追突事故に多い「頸椎捻挫(むちうち)」を例に挙げて、シンガポールでの慰謝料の水準を見てみましょう。
 

 
 このように、シンガポールではケガの程度に応じて慰謝料の水準が決まります。一方、日本では実際に要した入通院期間や通院日数に基づき慰謝料の水準が決まります。どちらの国でも、最終的な慰謝料は当事者間の協議や裁判所の判断により決定しますが、その算出の基本的な考え方には相違があります。
 

自動車事故の対物賠償

 シンガポールでの車両接触事故は、損害賠償額として、相手の車両修理費および車両使用不能損害(Loss of use)を支払います。保険金支払いのモデル事例を見てみましょう。

 

 
 シンガポールでは車両修理費の水準が高いため、このように軽微な衝突事故であっても損害賠償が予想以上に高額になることがあります。仮に日本でこのような損害を修理した場合、車両修理費は3分の1程度になることもあります。
 

自動車保険の種類

 シンガポールで多くの保険会社が販売している自動車保険は次の3種類です。

1.対人賠償・対物賠償のみ (Third Party)

 相手にケガをさせてしまった場合や、相手の車両に損害を与えてし まった場合などの損害賠償額を支払う商品。

2.対人賠償・対物賠償+車両火災・盗難補償(Third Party Fire and Theft)

 上記1.に加えて、契約している車の火災事故および盗難事故による 損害の額を支払う商品。

3. 包括補償(Comprehensive)

  上記2.に加えて、衝突、接触などの事故による契約している車の損害 や窓ガラスへの損害など、自動車事故により発生する損害の額を包括的 に支払う商品。契約している車の修理先に応じて、2つのプランを販売している保険会社があります。
 
 a.修理工場指定プラン:契約している車を、保険会社の指定工場 (Authorized Workshop) で修理するプラン
 
 b. 修理工場指定なしプラン:契約している車を、どの修理工場でも修理することができるプラン

 
 顧客のニーズに応じて補償範囲を調整できる点は、日本の自動車保険と同様です。一方で「3.包括補償」に契約している車の修理先に応じた2つのプランが設けられている点は日本と異なります。
 
 一般的に、保険料は「a.修理工場指定プラン」の方が「b.修理工場指定なしプラン」より安くなりますが、指定工場の多くは一般修理工場となります。このため、自動車ディーラーなど、希望する修理工場が保険会社の指定工場リストにい場合は「b.修理工場指定なしプラン」への加入が必要です(注)。
 
 (注)保険会社によって取扱いが異なる場合があります。
 

飲酒運転の取扱い

 飲酒運転事故による保険金の支払可否も、シンガポールと日本では取り扱いが異なります。日本では、飲酒運転事故でも被害者救済の観点から対人賠償・対物賠償に限り保険金を支払うことができますが、シンガポールでは、対人賠償・対物賠償を含む全ての補償で保険金を支払うことができません。「飲んだら乗らない、乗るなら飲まない」。シンガポールでも飲酒運転は絶対にお控えください。
 

最後に

 自動車保険には「万一の際の金銭補償」と共に「専門スタッフによる事故対応」という機能があります。日本とは様々な点で異なるシンガポールでの自動車事故をスムーズに解決するためには、シンガポールの損害賠償制度や賠償水準に精通している専門家のサポートが必要です。こうした観点からも、シンガポールにおいて信頼できる保険会社での自動車保険のご加入をお勧めします。 ※1Sドル=約78円(2019年9月末日時点)
 


大橋 英明 / Hideaki Ohashi
MSIG Holdings (Asia) Pte Ltd

千葉県出身。2001年、三井海上火災保険(株)入社。2016年4月よりMSIG Holdings(Asia) Pte Ltd に赴任。同社は、三井住友海上火災保険(株)のアジア・オセアニア地域の損害保険事業を統括する地域持株会社であり、同地域の事業戦略・方針の立案、事業推進の支援・管理監督を行っている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.351(2019年11月1日発行)」に掲載されたものです。

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