シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP顧客との契約から生じる収益に関する 新しい会計基準

会計・税務相談

2019年4月25日

Q.顧客との契約から生じる収益に関する 新しい会計基準

Q : 収益に関する会計基準が改正されたと聞きました。

A :FRS(Financial Reporting Standards)第115号は、顧客との契約から生じる収益に関する新しい会計基準で、2018年1月1日以後に開始される会計年度に適用されます。
これまで別々に定められていた収益に関する会計基準を一つにまとめ、あらゆる収益を共通の基準によって認識しようとした結果、より複雑な内容になっています。

2017年に開始した会計年度まで

2018年に開始した会計年度から

FRS第11号

工事契約

FRS第115号

 

顧客との契約から生じる収益

FRS第18号

収益

FRS解釈指針第31号

収益-宣伝サービスを伴うバーター取引

FRS解釈指針第113号

カスタマー・ロイヤルティ・プログラム

FRS解釈指針第115号

不動産の建設に関する契約

FRS解釈指針第118号

顧客からの資産の移転

 

FRS第115号は、顧客との全ての契約に適用されます。但し、FRS第104号「保険契約」、FRS第109号「金融商品」、FRS第116号「リース契約」が適用される契約は、除外されます。

FRS第115号における収益の認識のポイント

収益は、以下の5つのステップを踏んで認識されます。

ステップ1 顧客との契約を識別する

 契約とは、複数の当事者により強制可能な権利および義務を生じさせる合意であり、書面によるものだけでなく、口頭や商慣行による黙示的な合意も含みます。

ステップ2 契約における履行義務を識別する

 履行義務とは、契約において顧客に移転される商品やサービスのうち、一つのものとして他と区別できるものを指し、以下の2つの場合があります。

 

a) 商品またはサービス、あるいは商品とサービスの組み合わせ

 

b) 実質的に同じものが同じパターンで顧客に移転される一連の商品またはサービス

ステップ3 取引価格を算定する

 取引価格は、顧客との契約に基づき約束した商品やサービスと引き換えに企業が得られると見込む対価の金額(消費税など第三者の代わりに回収する金額を除く)とされます。取引価格の算定においては、変動対価、変動対価の見積もりに関する制限、重要な金融要素、現金以外の対価、顧客に支払われる対価の全ての影響を考慮しなければなりません。

ステップ4 取引価格を契約における履行義務に配分する

 取引価格は、契約において区別できる商品またはサービスの独立販売価格に基づき、個々の履行義務に配分されます。ただし、値引や変動対価が契約の中の一部の商品やサービスに対するものである場合、該当する一部の履行義務に配分することもあります

ステップ5 履行義務を果たした時に収益を認識する

 履行義務は、約束した商品またはサービスが顧客に移転されることにより果たされます。顧客への移転は、一度に行われる場合と一定期間にわたって行われる場合があり、一定期間にわたり移転される場合には、収益もその進行に応じて一定期間にわたって認識されなければなりません。

 

契約の当事者であるか代理人であるか

FRS第115号では、収益の認識にあたり、自らが顧客に商品やサービスを提供する当事者であるか、他の会社の代わりに商品やサービスの提供を手配する代理人であるかを判断することが要求されます。例えば、日本の親会社が製造する商品をシンガポールの子会社が顧客に販売する場合、シンガポールの子会社は、自社に関して契約当事者としての裁量を有しているかどうか検討する必要があるでしょう。以下のような場合、会社は契約の当事者ではなく、代理人であると見なされます。

    • 他の会社が顧客との契約を履行する主たる責任を負っている
    • 会社は、顧客からの受注の前後、輸送中、あるいは返品において、在庫リスクを負っていない
    • 会社は、商品やサービスの価格を自由に設定できる裁量がなく、結果として商品やサービスから得られる利益が限定されている
    • 会社が得る対価は、手数料の形式による
    • 会社は、顧客に対する売掛金について貸倒リスクに晒(さら)されない

取引の形態が代理人に該当する場合、損益計算書は、売上高から売上原価を控除した純額を収益として表示します。

斯波澄子(Toricor Singapore Pte.Ltd.

 

会計・税制、法律に関する皆様の疑問にQ&A形式でお答えします。e-mail:editors@mediajapan.sgもしくはweb:www.asiax.biz/inquiryまで、どしどしご質問をお寄せください。注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.345(2019年5月1日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP顧客との契約から生じる収益に関する 新しい会計基準