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スペシャルインタビュー

2019年3月26日

不変の家族愛を描く映画「焼肉ドラゴン」 チョン・ウィシン監督、来星インタビュー

映画監督 Wishing Chong ( チョン・ウィシン ) 監督

 2018 年公開の映画『焼肉ドラゴン』が監督デビュー作となった、Wishing Chong ( チョン・ウィシン ) 監督。2008 年に日韓共同制作として公演された同氏の戯曲が朝日舞台芸術賞グランプリほか、多くの演劇賞を受賞するなど日韓両国で絶賛され、映画化。兵庫県姫路市出身の在日韓国人で、元々は劇作家、脚本家、演出家。映画は高度経済成長期にあった1970年、関西で焼肉店を営む在日韓国人一家がたくましく生きる姿を描く。今年 1 月開催の「JapaneseFilm Festival(日本映画祭)」に同映画出展のため、来星された。

 

今回の映画の主題について教えてください。
日本における移民の歴史をテーマに“生きていかなければならない”状況にある、小さな家族の話です。

 

チョンさんは、祖父母が朝鮮半島から日本へ渡った在日韓国人三世の移民で、幼い頃ご家族と姫路城の外堀の石垣の上で暮らしていたとのことですね。過去を振り返って、どのように感じられますか?

子供の頃に特に大志があったわけではなく、ごく自然な流れでここまできた実感があります。出自の話については、その時があるから今があるし、現在のベースになっていると感じます。

 

映画化が決まった時、戯曲版が既に日韓両国で絶賛されていたので、
成功の予感があったのでは?

いいえ。戯曲の初演の際も、そんなに受けるとは思っていませんでした。初日を終えて大反響があり再演、再々演と続いていきましたが、その後映画化されるとは思いもよりませんでした。一つの家族という小さな世界について描いた映画が、“大きな世界(世間)”ではこう受け入れられたのだ、と驚いています。

 

映画監督になった経緯を教えてください。

元々、私は映画監督の器ではないと思っていました。撮影現場が大変そうで、私には務まらないと感じていたからです。それが、日韓共同制作で映画化の話に上がった際、臨場感をもって移民の歴史を最もよく知っている人は私だから、この映画の監督をするべきだと周囲の人々に推薦されました。

 

コメディーのようで悲哀がある映画ですが、根底にあるものは?

1993年公開の日本映画『月はどっちにでている』で脚本を担当しましたが、恋愛、金儲けへの執着について書いたため、在日韓国人から批判もありました。でも、差別されたかわいそうな在日という描き方をしたくありませんでした。それよりも“意志を持って生きている、明るい在日”を描きたい思いは、今も変わっていません。

 

映画のエンディングに圧倒されました。

あのエンディングは、最後スタッフと話し合って決めました。一つの時代の崩壊という意味だけでなく、“希望”を表しています。

 

映画の中のナレーションで「僕はこの街が、この街の人らが嫌いでした」及び「僕はこの街が好きでした」と相反する複雑な思いが語られますが、これはご自身の思いと重なりますね?

はい。あの場所で暮らしていた温かい人々が好きでした。幸せはどこにでもあることを知り、置かれた状況を受け入れて、その日を精一杯に生きる人たちでした。

 

もしこの映画が日本の何かを変えられるとしたら、それは何ですか?

変えようとまで思っていません。ただ、ヘイトスピーチや嫌韓がある中で、普遍的な家族愛というテーマに共感し、在日韓国人が日本にいる理由を知り、理解を深めてくれたら良いと感じています。

 

チョンさんにとって人生を変えるような本、映画などはありますか?

ルキノ・ヴィスコンティの『若者のすべて』です。男だけの5人兄弟という登場人物設定が、私と同じだからです。

 

2018 年は『クレイジー・リッチ!』やロカルノ国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した『A Land Imagined』と、アジア映画が世界で注目を浴びた年でした。今後も、アジア映画が世界で存在感を増すと思われますか?

韓国人監督も、すでに次々とハリウッドに進出しています。中国市場の拡大や中国が映画制作費にかける金額の大きさも、目を見張る規模です。世界でアジア映画が注目されるには、やはり西洋にはないアジア的な視点、アジアの価値観を表現することが鍵だと私は思います。

 

取材後記:
映画監督になる前は脚本家としてキャリアの長いチョン監督。ドキドキしながら取材を始めると、意外にも言葉少なにポツポツと、穏やかな笑顔で語る方でした。タイトルからアクション映画を想像していましたが、情感豊かな描写に心ゆさぶられる映画でした。写真撮影の際には「いつも目を瞑っちゃうんだよねー」という監督のお茶目な一言に、スタッフ一同、顔がほころびました。

(取材・写真/舞スーリ)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.344(2019年4月1日発行)」に掲載されたものです。取材・写真 : 舞 スーリ

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