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座談会

2018年12月28日

シンガポール・フィンテック事情

企業間で高まるコラボレーションの機運

AsiaX:シンガポール企業のフィンテックの取り組みをどのように見ていますか。

 

川端:シンガポールでは、フィンテックの向かう方向が変化してきていると感じます。私がシンガポールに赴任した2016年3月頃、大手企業はフィンテックの導入初期で、スタートアップが盛り上がっていました。周辺国も同様で、非常に多くのプレーヤーが生まれたものの、3年近く経過してみると、生き残っているプレーヤーが寡占しつつありますし、既存の銀行業界をディスラプト(破壊)するなどと言われたこともありましたが、現在はうまくコラボレーションしようという流れが強いです。非金融からの参入もあり、シンガポールに本拠のあるタクシー配車アプリのGrab(グラブ)やゲーム用サプライなどeスポーツで急成長しているRazer(レーザー)など、大きなプラットフォームを持っている新興企業にも注目しています。もともと自社プラットフォームの中で日常的に動いているお金の流れを活用して、カフェやコンビニなどリアル店舗でも支払えるようにして広がりを持たせています。

 

町:私もこのままでは、暗号通貨の発展性は限られると感じていました。現状は、ものすごいニッチな世界で盛り上がっている状況ですから、取引所と銀行が繋がる必要はあるし、クレジットカードとブロックチェーンなど現実世界と暗号通貨が規格によらずシームレスに接続しなければならないと思っています。当社でも製品開発を行っています。

 

藤原:それでも、シンガポールの金融機関は非常に進取的だと感じます。DBSなど大手銀行もスピーディーにスマホ決済のサービスを展開されたと聞きます。周りを見ながら、様子を伺っているのではなく、この新しい技術は浸透しそうだなとみると、果敢に対応する文化がありますね。
 今回、シンガポールに来てグラブを使いました。秀逸だなと感じましたが、こちらの人々は不満を持っていると聞きます。今後、さらに便利になると考えると恐ろしいなと思いましたし、こうした身近な点からも日本は遅れていると感じました。

 

AsiaX:なぜ、フィンテンク分野で日本は遅れてしまっているのでしょうか。

 

町:日本は、世界で先頭を切って銀行的なシステム化を完了した国なので、その遺産を守ろうという力学が働き、関係者の意見をよく聞かなければならないというのは、ある種、歴史の必然だと思います。法律的には、資金決済法、銀行法があり、前払式支払については100万円までと決まっています。これは法律的にはかなり進んだもので、小売業者が銀行業ではないがクーポンのようなものを発行して良い特例としてできた面があります。ECが発達する以前の話であり、100万円を超えることなどまずありませんから、前払式支払のルールにはみんな感謝したわけです。しかし、現在は取り巻く環境が激変しました。一方で、アジア各国はそうした法整備の蓄積はありませんので、これから時代に合った法律を作ればよいわけです。日本のようなレガシーの世界では、調整が遅れるのは仕方がないと思います。
 シンガポールに関して言えば、新しいルール作りが進んでいます。例えばシンガポール通貨金融庁(MAS)が2年前に「ユーティリティートークン(特定用途で使われる暗号通貨)は、証券性がなければ特段規制の対象にならない」ことを明言しています。そして、今夏にも5つほど事例を挙げて、これらの場合にはセキュリティー規制に抵触するので、監視下に入ると明確に示しました。こうした姿勢は、実業の立場からは、非常にありがたいと思っています。
 また、日本とシンガポールでは、消費者の気風も違います。日本は各人が大量に個人資産を持っていて、一方でシンガポールの場合は一部エリートは持っているが、それ以外は暗号通貨などには関心がないような感じがあり、ある程度スリム化されています。どうしても日本の場合は、熱狂してしまうと詐欺まがいの事業者に騙されるような人がたくさん出てきてしまうため、やはり仮想通貨交換業の取り締まりに注力せざるを得ない状況があると思います。シンガポールの場合、詐欺事業者自体が少ない気がしますし、国民も熱狂の中で騙される人が続出するという感じではありませんから、新しいビジネスに対して比較的に低整備のもとでスタートしやすいという背景もあるのではないかと思います。

 

川端:そもそも、クリプトカレンシーを日本では仮想通貨と訳しますが、「クリプト」は「暗号」という意味なので暗号通貨と訳すべきですね。全然意味が違っていますね。そして、シンガポールなどアジアではブロックチェーンを全面に打ち出した話ができますが、日本では仮想通貨ということが前に出てくる。ビットコイン取引所のマウントゴックス事件などが話題になりがちで、なんとなく怪しい、それを支えているブロックチェーンも怪しいみたいになってしまっていますね。

 

町:円天っぽい雰囲気になってしまっている。(一同、笑い)

 

藤原:今回、フィンテック・フェスティバルに出展して、ジャパンブースはあまり人気がなかったのには驚きました。隣のASEANブースは賑わっていました。技術的にも期待されていないのかもしれないですし、市場としても見られていないのではと危機感を覚えました。フィンテックからは、日本は連想されていないのでしょうか。

 

町:日本の金融機関はもともと、アメリカで発表されたサービスをいかに導入するかが至上命題でした。そのため、情報分析が中心になっており、開発した製品をグローバルに発信することはほぼありませんでした。日本の金融機関、証券会社は、ゴールドマン・サックス、JPモルガン等と組んだフィンテックベンチャーのお客さんというイメージで、製品を開発しているイメージを持たれていないのだと思います。
 2年ほど前から、方針転換したとは思いますが、AIの活用もオートメーション化に向かっていますし、しかも今度はヨーロッパから買ってくるイメージです。もちろん、NECをはじめイノベーションはあるわけですが、日系の金融機関は規模が大きいですから、どうしても日本全体にそのイメージがついていることはあると思います。

 

AsiaX:今後の抱負をお聞かせください。

 

川端:SPEEDAは対象としている企業やセクターが幅広いですが、お客様からのフィンテックなど新しいテクノロジーへのニーズは確実に高まっています。
 当社のシンガポールの日系現地法人で契約頂いている場合は、求められる情報の質は日本本社よりも細かくなりますし、最新動向が求められます。また、現地のお客様からの要求レベルは自ずとかなり高いものになります。私たちのような情報産業には古参の外国大手企業があり、チャレンジが多いのは事実ですが、フィンテックのような新しい分野にもしっかり取り組み、アジアやグローバルでリーダーになることを目指しています。

 

藤原:フィンテック、スマホ決済分野を、より便利にしていくことが私達の一番の目的で、これはどこの国でということではありません。いま、消費データに関してはオンライン、オフライン含めビックデータがたくさんありますが、実はそのお金を誰が出しているかについてのデータはまったくありません。販促を考えるとき、買う人ではなくてお金を出す人のデータが、市場をさらに活性化する起爆剤になり得ると思っていますので、この分野に取り組んでいきたいと思っています。
 加えて海外送金分野です。国と国を繋ぐフィンテックもいろいろ出てきていますが、当社も各国で基盤を作って為替を挟まないような、お金の使い方も実現できると思っています。
 フィンテック分野の先進国といえば中国で、ALIPAY(アリペイ/支付宝)やWeChatペイ(ウィーチャット)などスマホ決済、新しいQRコード決済が世界に広がりつつあります。日本国内ではこれから様々な変化が起こってくるだろうし、日本人は細かい作業が得意なので、日本人らしいサービスも出てくるでしょう。
 いずれにしても、日本国内はもちろん、シンガポールで先にサービスを開始するという可能性も含めて取り組んでいきます。当社にとっては今回のシンガポール・フィンテック・フェスティバルへの出展が本当の意味でのスタートだと思っています。

 

町:我々は、エンターテインメントを決済を含めてグローバルで回そうとしていて、地理感は重要ではなく、決済行動が重要です。日本でも、地方のテレビ局のローカルコンテンツで人気のある番組は、全国放送されていますし、今後は簡単に国境を超えると思います。本当に面白い才能であれば、グローバルで勝負すれば、マーケットが大きいのでそれなりの収入になりえます。日本国内はなんとなく閉塞感が漂っているわけですが、スターを大量に生み出しアジアに進出させる仕組みを整えることが必要だと思っています。システム技術者として、そういうインフラを作りたいと思っています。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.341(2019年1月1日発行)」に掲載されたものです。(司会・編集/竹沢総司)

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