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2018年12月27日

今年は文楽のシンガポール初公演も JCC設立10周年、日系企業は「もっと活用を」

在シンガポール日本国大使館  ジャパン・クリエイティブ・センター(JCC) 所長・参事官 杉田 明子氏

「日本のいま」を発信する、ジャパン・クリエイティブ・センターが今年10周年の節目を迎えた。近年は地元機関・施設と連携したイベント展開を活発化させるなど、発信の方法も多角化させてきた。今年は、シンガポール初の文楽公演の実現を目指しており、杉田所長は「文楽には日本の文化の豊かさ、歴史の長さ、モノ作りの優秀さが詰まっています。直に見てもらうことで、きっとシンガポール人の心に響くと思っています」と意気込む。JCCのこれまでの歩みとともに、今後の課題なども含めて話を聞いた。

 

 

ジャパン・クリエイティブ・センターが設立10周年を迎えました。まず、所感を。

 

 JCCは、私が2008~09年にかけて外務省広報文化部に勤務していた時に開設されました。私がシンガポールに赴任したのは一昨年6月で、JCCに直接関わってきたのは1年半程ですが、開設時には建物の大幅な改修が必要で、在シンガポール大使館から日本の外務省に修復計画や費用の概算などが次々に送られましたが、その省内調整の仕事をしていたため、JCCの開設時の経緯はその頃から認識しております。

 

 在外公館は世界中にあり、中には大使館とは別に広報文化センターを持つところもありますが、ジャパン・クリエイティブという名称が付いているのは、このJCCのみです。JCCは2007年に安倍晋三総理とリー・シェンロン首相の合意で設立に至りました。シンガポール政府から「シンガポールは地域のハブであり、日本の創造的な側面をぜひここで発信する基地を作ってはどうか」という提案をいただいたことがきっかけになっています。

 

 オープニングの式典では、リー・シェンロン首相がテープカットを行いました。実は、私もその時に出張でシンガポールに来ていましたが、ホスト国の首相と、日本の総理が揃って、オープニングをした広報文化センターは他にありません。名称も、成り立ちも唯一無二の施設であり、シンガポール政府の期待の大きさが表れているといえます。

 

 今年は設立10周年であり、私自身にとってもこの節目の年にJCCで仕事ができることは幸せなことです。この10年をきちんと振り返り、今後の方向性を見据える1年にしたいと思っています。

 

これまでの海外での経験を紹介してください。

 

 外務省入省以来、今回のシンガポールで在外公館勤務は4度目になります。シカゴ総領事館、サンフランシスコ総領事館で広報文化と報道の仕事をしていました。シカゴ勤務は1980年代のことですが、当時は日米貿易摩擦が深刻な問題で、特にシカゴを中心とするアメリカ中西部は対日感情が厳しく、現在とは全く異なる広報環境でした。その中で、日本のファンや親日家を増やす活動をしていました。

 

 2000年代初めのサンフランシスコ勤務は、リベラルな土地柄で、当時の共和党ブッシュ政権下で勃発したイラク戦争に対しては市民の反対の声が多いわけですが、その中で日米同盟の重要性を訴えていました。またアジア系の市民が多い環境の中で、仕事を通じて多くの日系アメリカ人と知り合いました。日系人の歴史という縦糸と日米同盟という横糸をどう紡いでいくかという広報に取り組んでいました。

 

シンガポールの印象についてはいかがですか?

 

 やはり実際に住んでみると、出張などの短期滞在から受ける印象とはだいぶ違いますね。通勤では毎朝、1.3Kmほど歩いておりますが、ほどよい汗をかき良い運動になっています。また、JCCの近くにも東南アジア特有の巨木が生い茂っていますし、野生の鶏や、大きなトカゲ、リスなどにも出会います。自然も残っていて、東南アジアにいることを実感しています。一方でシンガポール政府は計画的な国造りを推し進め、港湾地域を開拓し、埋め立てを行っています。マリーナ・ベイサンズが開業してからまだ10年経っていませんし、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイも最近できたものです。シンガポールを代表する顔が次々に完成しており、その勢いには驚いています。

 

この10年間で、JCCによる企画の傾向や取り組みに変化はありますか?

 

 JCCは、日本の今、すなわちどんな価値観を持って、どんな国になろうとしているのか、そのためにどのようなクリエイティブなものを発信しているのか、を紹介することが役割です。分野としては、政策発信はもちろんのこと、芸術文化・伝統芸能、科学技術、アニメや漫画などのポップカルチャー、ライフスタイル、そして日本の食などです。これらの軸は、2009年以来変わってはいませんが、発信の仕方は変化を続けています。初期の頃は、JCCの施設自体を使うことに特化しており、ショーケース型が多かったといえます。施設内で展示やコンサート、セミナーなどを行っていました。現在も「Let’s Talk About Japan」として日本の経験や政策を発信しています。その後、さまざまな団体との共同事業が増えていき、最近では図書館、コミュニティセンター、大学、あるいは商業施設などでというように、アウトリーチ型も多くなっています。

 

 特に、コミュニティセンターとの連携は増えています。週末に行われるコミュニティセンターのイベントではよくブースを設置できるスペースを作るので、JCCも参加しています。一昨年のアワー・タンピネス・ハブ(OTH)のオープニングには週末に10万人以上が訪れましたが、ここでは書道のデモンストレーションや折り紙のプレゼントなどをしました。ハンズオンアクティビティは大人から子供まで楽しんでいただけますね。また、オープニングに併せて「君の名は。」を上映したときには満員になりました。

 

 JCCでの映画の上映もしばしば行っています。映画は特に若い世代に人気があります。この1月にも「日本映画祭2019(Japanese Film Festival 2019)」をオーチャードの映画館で10日間にわたって開催します。

 

 JCCの事業は維持しつつ、さらに大きな会場で事業を行えば、たくさんの人に見ていただくことができます。一例として、昨年3月にガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(GBTB)で開催された桜まつりがあります。桜まつりは、GBTBが2016年、17年と桜の培養に取り組み、ドームの中できれいに咲くことを確認した後、18年に始まったのですが、17年にリー・シェンロン首相が視察したときに、「桜はあるけど着物を着ている人がいないね」と感想を言ったそうです。そこで、GBTBから日本の文化を紹介するイベントにしたいと大使館にアプローチがあり、第1回の桜まつりに繋がりました。この中で、JCCはプログラムパートナーとして参加しており、日本人会や日星文化協会の協力を得てお茶、お琴、日本舞踊、太鼓演奏などの日本文化を紹介し、さらに日本貿易振興機構(JETRO)、日本政府観光局(JNTO)、自治体国際化協会(CLAIR)ほか日系の団体や企業とともにブースを運営し、日本文化や観光、食の魅力を紹介しました。

 

日本へのシンガポール人旅行者数は、この数年で飛躍的に増加しました。日本がより身近になったと思いますが、どのような分野に人気があると感じていますか?

 

 シンガポール人と話していると、個人旅行が圧倒的に多いということと、東京~大阪というゴールデンルートでは飽き足りず、中山道をウォーキングするとか、山形県のデトックス道場を訪れるというふうに、日本人でもなかなか行かないところにまで関心が広がっていると感じています。幸いシンガポールには、各自治体の事務所が多くありますから、日本の観光促進でも協力していきたいと思っています。

 

 また、驚くほど人気があるのは日本の伝統文化ですね。これまでも、JCC、図書館、博物館などで、狂言、日本舞踊、能のワークショップや公演を開催していますが、開催が決まるとすぐにたくさんの申し込みがあります。

 

 JCCでは今年、10周年のハイライトとして、できれば世界無形文化遺産の文楽公演をシンガポールで初めて実現したいと考えています。人形の一つ一つの細工や、三人の人形遣いが創り出す生きているかのような人形の動きや表情には、日本の文化の豊かさ、歴史の長さ、モノ作りの優秀さが詰まっています。直に見てもらうことで、きっと、シンガポール人の心に響くと思っています。
 
 

JCCにとっての現在の課題は何ですか。

 

 まず、JCCが日本人コミュニティーの皆様への認知が不足していることが挙げられます。日本の文化人、企業、製品、サービス、価値観などを発信する場としてもっとJCCを活用してほしいと思います。これまでも日本企業による分譲住宅企画や、抗がん剤の効用、糖尿病対策や、社内IT化の進捗状況など、企業単体のプレゼンテーションも行っていますが、在星日本人、日本からの出張者を問わずJCCを利用できること自体が十分知られていないと感じています。今、シンガポールはスマートネーションやIoTに非常に力を入れていますし、少子化など日本と共通する課題も多いため、日本の先進的な取り組みに対する関心はとても高いので、ぜひJCCを使って発信していただきたいです。

 

 一方、シンガポールの強みの一つにハブ機能がありますので、シンガポール人だけではなく、シンガポールに住んでいる東南アジアの人々の取り込みを目指して、東南アジア地域への発信を強化していきたいとも思っています。いずれ帰国したときに、彼らからここで見たこと、聞いたことが伝播するような流れになってくればと思っています。

 

 最後に、シンガポールの若者を意識した取り組みです。シンガポールの政治もちょうど第4世代に代わるタイミングで、次期首相候補者が公になりましたが、この国もやはり代替わりしていくわけです。以前、デジタルアートで絵を描く日本人アーティストによる女子高校生の理想像を描くという展示会を開催したことがあります。シンガポールや東南アジアの若者層がドッと来場し、その盛況ぶりに非常に驚きました。日本のポップカルチャーやテクノロジーを駆使したアートという新しい分野の紹介も意識していきたいです。

 

次代の若者ということでは、外国語科目として日本語の人気はいかがですか?

 

 日本語を学びたいという人の数は、日本経済の状況とリンクしている話だと思います。かつては日本語を学習すれば、それが生活の糧になるということで、現在よりも学習へのインセンティブが強い時代がありました。翻って日本の大学への留学者数は横ばいが続いています。日本語学習者数はというと、シンガポールでは小学校卒業試験の成績上位者は英語と継承語(Heritage Language)に加え、第3言語を学ぶことができます。日本語も対象言語の中に入っていますが、人気は高いと聞いています。問題は大学レベルになったときに、まだ日本語を学びたいと考えているかどうかです。JCCは日本人会、日本商工会議所、日星文化協会(JCS)、シンガポール留日大学卒業生協会(JUGAS)と共催で、毎年日本語スピーチコンテストを開催しています。入賞者は、日本にホームステイするなどの賞品があります。ここから将来の知日派、日本研究者が育つことを願っています。

 

 

杉田 明子 氏

 

東京外国語大学スペイン語学科卒業。1981年外務省入省。大臣官房(儀典官室)課長補佐、在サンフランシスコ総領事館領事、国際連合日本政府代表部一等書記官、(公財)フォーリンプレスセンター事務局長等を経て、2017年6月から現職。儀典官室では「即位の礼」に携わった。「今年、即位の礼が行われるということで、とても感慨深いです」と話す。座右の銘は『冬来たりなば春遠からじ』。東京都出身。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.341(2019年1月1日発行)」に掲載されたものです(取材・写真 : 竹沢 総司)

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