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アジアおもしろクルマ事情(シンガポール編)

2018年11月30日

新しいモビリティ社会の実験場

 

 狭い国土に560万人の人口。シンガポールは政府の強力なリーダーシップのもと、マイカーの保有や使用を制限し、公共交通機関を発展させてきました。ラストワンマイルの移動手段としてはタクシーだけでなく、グラブやモバイクといったシェアリングやPMDという一人乗りの電動ローダーも制限付きで認めています。さらには、自動運転の特別区まで用意し、海外からの開発投資を呼び込もうとしています。まさに『新しいモビリティの実験都市』としての性格を鮮明にしています。

 

トヨタの新車なんと1,000万円

 

 シンガポールで現在走っているクルマの総数は約95万台。国民の6人に1台と他の先進国と比較して非常に低い普及率です。100%もの高い税金に加え、新車の登録には入札制の自動車登録証が必要とされるため、新車の値段は周辺国と比較しても大変高くなっています。トヨタのプリウスに1,000万円前後の値段がついています。
 また、朝夕のラッシュ時には市内への流入車に課金されるなど、マイカーやカンパニーカーを持つことはシンガポールではなかなか窮屈な思いをすることが多いようです。
 それでも暑い南国の気候と突然のスコールという環境下でのクルマの利便性は他の公共交通機関に代え難いため車を所有したい人も多く、お金持ちの多いシンガポールはとりわけベンツやBMWなどの高級車が目立ちます。年間わずか6万台の小さな新車市場にも関わらず、高級車の販売量は周辺国の中でも群を抜いています。
 政府は2018年2月より自動車登録証の発行制限によってこれ以上保有台数を増やさない対策をとっており、自動車の価格はますます上がり保有し難くなることが予想されます。

 

 

シンガポールはMaaS先進国

 

 世界的に MaaS*(モビリティ・アズ・ア・サービス)という言葉がブームになっていますが、シンガポールでは『モビリティは政府がリードし管理すべき重要な要素』と考えているようです。地下鉄やバスといった大量輸送手段は政府のグランドデザインにより便利で安価な乗り物としてうまく機能しています。それを補完するドア・ツー・ドアの交通手段やシステムは一旦民間の自由競争に任せてから必要に応じ規制していくという方法を取っています。配車アプリのグラブは、その利便性から一旦タクシーからビジネスを奪ったものの、現在はタクシーよりも少しクオリティの低い安価な交通手段としてのポジションを確保し棲み分けがなされたようです。シェア自転車は各社が事業を開始し、放置問題の発生などを経て、最終的には事業認可制となり、中華系や地場系など6社が政府からライセンスを供与されました。さらに、地下鉄やバスにも折り畳んで持ち込める一人用電動キックボードもそのファッション性が若者に受け、3万台も販売されたあと運行規定が作られています。新しいモビリティ手段はまず民間がやってみてから政府が安全面、環境面で規制をかけていくという方式は、『自由競争と厳しい政府コントロールの使い分け』という意味でとてもシンガポールらしいと言えるでしょう。

 

 

運行ビジネスの担い手は個人

 

 シンガポール政府はMaaSを自国のIT産業発展の重要な要素とも位置付けています。MaaSの将来に欠かせない自動運転やEVの自動運転の実験地区を設定し、各国のITベンチャーを呼び込もうとしています。これを受けていくつかのベンチャー企業や業界を超えたコンソーシアムがシンガポールで立ち上がり、そうした企業への投資ファンドもでき上がっています。
 世界のトレンドを捉え、シンガポールはアジア地区のMaaSの実験場、ひいてはモビリティ情報産業の集積地へと変貌しようとしているのです。

 

 

*MaaS … Mobility as a Service 全ての交通手段を単なる移動手段としてではなく一つのサービスとして捉え、シームレスに繋ぐ新たな移動の概念を指す

プロフィール

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藤井 真治(ふじい しんじ)

(株)APスターコンサルティング
アジア企業戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー

自動車メーカーの広報部門、海外部門、新規事業部門経験30年以上。インドネシア/香港現地法人トップとして海外での企業マネジメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業を支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応えます。『現地現物現実』を重視し、クライアントと一緒に汗をかくことがポリシー。
Website: www.ap-star.jp  E-mail: fujii258@gmail.com

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.340(2018年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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