シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPなぜシンガポールの飲食店の寿命は短いのか

シンガポール星層解明

2018年11月28日

なぜシンガポールの飲食店の寿命は短いのか

また、新規ブランドの導入のみならず、例えば味千拉麺や秋光など複数の和食店ブランドを展開するジャパン・フーズ・ホールディングは、業績が振るわない店舗に対しては迅速に傘下の他ブランドの店舗に衣替えしている。これらブランドの多様化や改廃により、各社は限られた市場の中で幅広い客層の取り込みを狙っている。さらにキムリーは地場飲料会社のアジアン・ストーリーを買収、ジャンボ・グループなどは即食商品を販売、ノー・サインボード・ホールディングスはデンマークのビール会社を買収するなど、事業の多角化を進めることでより安定的な成長を目指している。

 

3点目は、シンガポール国外への進出。ブレッドトーク・グループやジャンボ・グループを筆頭に、図1にある大手企業の大半はマレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、中国、台湾などアジアを中心に各ブランドの国外展開を進めている。激化する国内の競争環境に加えて、島内では新規出店の余地も限られていることから、今後も知名度の高い外食ブランドを中心に、海外展開は増加を続けていくとみる。

 

「うまい、やすい、はやい」か?
顧客体験の優位性が勝敗のカギ

国内総生産の0.8%を占め18万人の雇用を生み出しているシンガポールの外食産業(エンタープライズ・シンガポール、2016年)。前述したITMによる生産性の改善にとどまらず、シンガポール・レストラン協会が主導する海外視察や優良外食企業の表彰、さらにはホーカー・センターのユネスコ無形文化遺産への推奨や2019年の「世界のベストレストラン50」の表彰セレモニーの国内開催など、官民一体での取り組みは枚挙にいとまがない。その大きなゴールの一つには、外食や飲食業界全体のレベルアップや活性化を通して、シンガポールがアジアを代表する「食の都」の一つであり続けることにある。またそれを実現していく上では、政府や業界団体からの支援もさることながら、個々の飲食店や外食企業における工夫や努力が必要なことは言うまでもない。では何が必要か。最後に飲食店の寿命にもつながる要諦に触れ、本稿を締めくくりたい。

 

日本では外食産業を代表する企業として紹介されることも多い吉野家ホールディングス。その中でも主要ブランドである吉野家の特徴を一言で表現する「うまい、やすい、はやい」。この単純かつ言い古されたキャッチ・コピーが含意する原理原則からシンガポールの飲食店が見習うべき点は少なくないと考える。「うまい」や「やすい」という基本的かつ最重要な点で訴求できない飲食店が、ことさら「国民総美食評論家」である消費者の再来店を促すことは困難である点は既述した通りである。味と価格に競争力があることは大前提として、飲食店が競争に勝ち残っていくためには、追加で顧客体験の優位性が重要になってくる。吉野家の例では「はやい」が顧客体験における差別化要素として消費者に受け入れられていることがこれまでの成長の背景にあり、現在でも注文から料理提供までの時間を短縮する取り組みには余念がない。
「はやい」以外にも、例えばスターバックスが提供する「サード・プレイス(家庭、職場・学校等に次ぐ第3の生活拠点)」に代表される店舗空間や清潔度、店舗の立地、そして飲食店スタッフの愛嬌やサービス精神が生み出す接客サービスなど、顧客体験で差別化を図る要素は挙げればきりがない。

 

消費者にとっては欠かすことのできない外食業界。激化する一方の競争環境の中で各飲食店がどのようにして独自の「うまい、やすい、はやい」を実現していくのか、今後の動向に注目していきたい。

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