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シンガポール星層解明

2018年8月28日

シンガポールからの訪日旅行者が急増しているワケ

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SIAのシンガポール/羽田線、毎日4回に増便(2018年7月19日)
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日本を訪問するシンガポール人の旅行者は、2011年から2016年までの間に3.2倍と激増し、2018年6月に訪日したシンガポール人は4万人と、6月として過去最高を記録した。また、シンガポールにおける「訪日旅行の普及率」は6.5%と、アジア各国・地域で群を抜いて高く、旅行者のさらなる増加に向けてはその旅行実態やニーズの理解が欠かせない。本稿では、シンガポールから日本を訪れる旅行者が急増している背景や、シンガポール人訪日旅行者の特徴を洗い出した上で、インバウンド市場や関連する消費市場のさらなる拡大に向けて留意すべきポイントを考察していきたい。

 

シンガポール人の訪日は5年で3.2倍
「訪日旅行の普及率」は6.5%で域内随一

「国民総美食評論家」や「ショッピングが最大の余暇」とも揶揄されるシンガポール。裏を返せば、国内だけでは出かける場所が限られるシンガポール人の間で「食事」と「買い物」が同時に楽しめる旅行の人気が高いことは言わずもがな、シンガポール人は少なくとも年に2回、特に学校の長期休暇である6月と12月に海外旅行をすることが一般的とさえ言われている。実際に、シンガポールの人口550万人の中の約350万人のシンガポール人のうち、出国者数は910万人(2015年度)と、国民一人当たり年間2.6回は海外に出国している計算になる(陸路によるマレーシアへの旅行者は含まない)。

 

中でも日本を訪問するシンガポール人の旅行者は、東日本大震災による影響で観光客が減少した2011年から2016年までの間に3.2倍と激増している(図1)。また訪日人気は世界的なトレンドでもあり、2018年6月の訪日旅行者数は前年同月比15.3%増の270万人と、6月としては過去最高を記録している。アジア各国・地域においてもシンガポールのみならず、タイを筆頭に日本への訪問者数は急増している(図2)。2018年の訪日旅行者数は初めて3,000万人を突破する可能性が高まっており、わずか5年前に初めて1,000万人を超えたことを考慮すると、その順調過ぎともいえる成長に感心せざるを得ない。

 

またシンガポールの人口に占める訪日旅行者数の割合は6.5%と、他の東南アジア諸国に比べて圧倒的に高い(図2)。この「訪日旅行の普及率」の高さは、旅行業界のみならず、シンガポール人を相手に日本関連の消費ビジネスを展開するあらゆる事業者が留意すべき点であり、ともすれば「在星日本人以上に日本に詳しいシンガポール人」に対する戦略を練り直す必要性を示唆している。

 

 

訪日観光が「高嶺の花」は過去の話
路線網や販促の拡充も訪日を後押し

シンガポールから日本を訪れる旅行者が急増している背景は何か。考えられる理由を考察していく。
1点目は円安の進行による旅行費用の下落。2011年は1Sドル=60~70円で推移していたシンガポールドルの対円相場であるが、2016年の後半から2018年8月時点にかけては、1Sドル=80~85円と円安で推移している。仮に2011年は1Sドル=60円、2016年は1Sドル=80円とした場合、日本の長いデフレによる物価水準の下落も伴い、シンガポール人旅行者の感覚ではこの5年の間に日本の物価は25%以上も下がったことになる。

 

2点目は旅客便の多様化による利便性の向上。シンガポールと日本を結ぶ定期旅客便の週間便数は、2008年の77便から2017年の147便と、約2倍に拡大している(図3)。またこの間には格安航空会社(LCC)の市場参入に加えて、日本の地方都市への路線網が拡充されたことにより、運賃と行き先の両面で旅行者の選択肢が豊富になったことも背景に挙げられる(図4)。シンガポール航空は今年の12月から、現在は1日3便のシンガポール・羽田便を1日4便に増便する予定であり(全日本空輸と日本航空の同路線は現在それぞれ1日2便)、両国間の旺盛な旅行需要に対応すべく、今後も移動手段の利便性は向上を続けていくとみる。

 

3点目は販促活動の拡充による観光需要の喚起。今年の8月3日から5日までは「トラベル・レボリューション」、同じく8月17日から19日まではNATAS(全国旅行代理店協会)の旅行博と、シンガポールでは大型の旅行フェアが年に数回開催されている。加えて8月4日と5日には、日本の食、旅行、伝統文化、テクノロジー、エンタメ、スポーツの分野の魅力を紹介する総合博も開催された。これらオフラインの販促機会には、日本の企業や自治体、観光機構などが継続的に出展し、訪日観光需要の喚起と取り込みを図っている。また2017年の秋には、全日本空輸が当地のインフルエンサー(ファンの消費行動に影響を与える人)を起用、彼らがビジネスクラスに搭乗して訪日し、国内各地を訪ねる模様をフェイスブックなどのSNS(交流サイト)に投稿している。この新たな販促活動は想定以上の効果を発揮したといい、これらのデジタルマーケティングは今後も需要の喚起に大きな役割を果たしていくとみる。

 

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