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アジアおもしろクルマ事情(マレーシア編)

2018年5月28日

マレーシアで国民車の果たした役割

1人当たりGDPが1万ドルに迫り、ほぼ2人に1台の割合で自動車が普及するマレーシア。マハティール首相(当時)のリーダーシップで35年前に立ち上がった国民車メーカー「プロトン(Proton)」は経営不振に陥り、今では販売シェア4位にまで後退してしまいました。それでも「プロトン」がモータリゼーションを推進していく上で果たした役割は大きいものがあります。

 

 

クアラルンプールの国際空港で配車アプリを使って呼んだグラブカーの後部座席に座り、立派な高速道路を走りながら周囲のクルマを観察すると、ホンダやトヨタに混じってほかの国では見たことがないバッジを付けた乗用車がたくさん目に留まります。これは、政府が国民車(National Car)構想の下に様々な支援を行うことで安価なプライスタグを実現し、普及させてきたクルマなのです。

 

マハティールの国民車構想

国民車には、最初の「プロトン」と後から出てきた「プロドゥア(Perodua)」の二つがあります。1983年に生産・販売が始まりまった「プロトン」は、マレーシア人の手でクルマを作ることを掲げたマハティールが、トヨタや日産など海外メーカーの現地生産車を意識し、税制により大きく優遇し低価格を実現したこともあり、シェアは一時60%にも達しました。しかし、三菱自動車などとの“つまみ食い”の技術移転方式をベースとした生産や経営は徐々に立ちいかなくなり、商品力低下や品質問題を起こしたことなども影響。昨年にはシェアが12%にまで低下し、ついに中国メーカーに株式の過半数を譲渡してしまいました。膨大は資金力とノウハウが必要な自動車産業は、特に商品開発が難しく、国家の支えだけでは事業継続に無理があったのかもしれません。

 

今でも健在の第一世代プロトン・サガ

 

バッジだけになってしまった国民車

一方、1993年に立ち上がった第二国民車「プロドゥア」は、海外メーカーとの実力差を初めから折り込み、パートーナーに選んだダイハツに製品開発や生産技術などかなりの部分を任せ、マレーシア側は「プロドゥア」のバッジという“面子”と、“販売”という美味しいところを取る戦略にでました。

 

その結果、「プロドゥア」のバッチをつけたダイハツモデルは商品力、価格、品質などの面でマレーシアの大衆車ユーザーの好評を博し、現在は自動車市場全体でもナンバー1、販売シェア35%を誇るブランドにまで成長しています。

 

プロドゥアのローエンドモデル「AXIA(アジア)」

 

国民車がマレーシアで果たした役割は

「マレーシア人が設計し、生産し、マレーシア人が使うクルマ」という理念の国民車構想は、「プロトン」が立ち上がった時代とは随分と様相が変わり、国民車を国際産業に育てるという夢は残念ながら敗れたと言えるでしょう。しかしながら、この低価格車がマレーシアにもたらした効果は大きいものがあると言えます。

 

現在、マレーシアの自動車普及率は1,000人あたり400台以上で、ASEANではブルネイに次ぐ第2位です。「プロトン」は国民に安価で利便性の高いドア・ツー・ドアの交通手段をもたらし、移動の自由を与えたという意味合いは大変大きいのではないかと思います。また後発の「プロドゥア」も近年増えつつある中間層が初めて買うクルマとしてモータリゼーションを支えているのではないでしょうか。

 

国民車の過去と未来

マレーシアの一人当たりGDPはシンガポールという別格を除けば、東南アジアではタイやインドネシアとは比較にならないほどの高水準で、中進国のレベルまであと少しという状況です。国民車という普及版のモデルが販売されている一方で、富裕層のクルマであるトヨタやホンダも10年単位で見れば順調に販売台数を伸ばしています。さらに超富裕層を対象とするベンツやBMWといった高級欧州車の販売も1万台を超えています。「クルマ好き」が多いのもマレーシアの特徴で、モータースポーツも盛んです。

 

マレーシアの自動車市場はこの数年伸び悩んではいますが、すでに成熟ステージに入った50万台レベルの安定市場。国民車「プロトン」がこれまでモータリゼーションの進展や自動車カルチャーを底辺で支えてきたことはもっと評価されても良いのではないでしょうか?その「プロトン」が中国資本の支援の下で経営の舵取りがどう変わるのか。また、第二国民車である「プロドゥア」がダイハツの力を借りながらどう発展して行くのか目が離せないところです。

プロフィール

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藤井 真治(ふじい しんじ)

(株)APスターコンサルティング
アジア企業戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー

自動車メーカーの広報部門、海外部門、新規事業部門経験30年以上。インドネシア/香港現地法人トップとして海外での企業マネジメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業を支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応えます。『現地現物現実』を重視し、クライアントと一緒に汗をかくことがポリシー。
Website: www.ap-star.jp  E-mail: fujii258@gmail.com

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.334(2018年6月1日発行)」に掲載されたものです。

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