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ビジネスインタビュー

2018年5月27日

【マリーナベイ・サンズ 社長】ジョージ・タナシェヴィッチさん

日本にマリーナベイ・サンズスタイルの統合型リゾートを

 日本で4月27日、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)実施法案が閣議決定された。日本でもシンガポールやマカオのような、ホテル、ショッピングモール、劇場などのエンターテインメント施設、コンベンションセンター、そしてカジノが1ヵ所に揃った「統合型リゾート」(IR)の出現が現実味を帯びてきた。マリーナベイ・サンズの経営母体であるラスベガス・サンズは、日本でIRの建設が可能になり、建設地が大阪の埋め立て地ゆめしま夢洲に選定されるなら、最大100億USドル(約1兆900億円)をかけたIRの建設が可能だと公言している。マリーナベイ・サンズの社長兼CEOで、ラスベガス・サンズの海外開発担当責任者も兼任するジョージ・タナシェヴィッチ氏に日本進出の展望を聞いた。

 

 

ラスベガス・サンズは、日本でIR建設が可能になり、その場所に夢洲が選定されればマリーナベイ・サンズの2倍近い額の投資をすることが可能であると言われていますが、どのようなものにするか、すでに構想はありますか。

 詳しい構想はまだです。たくさんの要素が絡み合うため時間のかかる事柄ですし、何よりまずは、夢洲にどのようなIRが建設可能となるか、アクセスはどうなるかなど、これから整備される環境を、細かい点も含めて見極める必要があります。

 

マリーナベイ・サンズは、ホテル、ショッピングモール、美術館、コンベンションセンター、カジノが一体となった巨大IR

 

マリーナベイ・サンズは外国人訪問客をターゲットにしているように見受けられます。ラスベガス・サンズが日本で考えている計画も外国人客をターゲットにしたものになりますか。

 日本政府の考えるIR計画は、連鎖的に外国人訪問者数を増やし、経済を活性化させることが目的とされています。ですから、まず、購買力が十分にあり、日本の経済発展に貢献できる外国の人たちに魅力を感じてもらえるようなものを、と考えます。しかし、もちろん「統合型リゾート」ですので、MICE(国際会議・展示場)施設を併設しますし、日本の方にも来ていただけ、外国の方、日本の方、ともに喜んでもらえる内容の造りにしたいとも思っています。

 

もし日本にラスベガス・サンズのIRが建設されることになったら、日本人にはどのようなメリットがありますか。

 大型IRを導入することにより、日本の方に幅広い職種でキャリアを磨いていただくことができます。ここマリ―ナベイ・サンズでは650に上る職種の人たちが働いています。現在日本は人手不足と言われているので、私たちにとっては挑戦を強いられることになるでしょうが、政府と協力し、高いレベルのサービスを提供できる人材を探し、育てる方法を模索したいと思っています。

 

 また、日本の方々には、お客様の立場としても、新しいタイプのエンターテインメントが現れることになります。レストランは、まだ日本にないタイプのものや、日本では紹介されたことのないシェフが腕を振るうような魅力的なものになりますし、ショッピングモールにも、日本未上陸のブランドを入れますので、存分に楽しんでいただけることと思います。

 

北海道や九州の都市などもIR候補地として手を挙げていますが、大阪以外の都市へも進出の意向はありますか。

 私たちのビジネスモデル、投資回収の構想が当てはまるのは日本の大都市になりますので、進出の候補地は東京、横浜、大阪です。他の候補地が良くないというのではなく、IRのタイプが異なるものになるため、ラスベガス・サンズの進出対象にはならないということです。

 

日本政府はIRに設置するカジノの占有面積に制限を設けようとしています。このことは日本進出への足かせとなるでしょうか。カジノなしでの進出の可能性はありますか。

 カジノの占有面積の上限がIR全体の3%になるようにとの制限だと理解していますが、収益を上げるには十分な大きさだと思います。私たちはIRの経営会社で、IRとはカジノを含むものだと解釈しています。よって、私たちはカジノを含まない施設は建設しません。カジノは全体の経営において最も重要な要素であるからです。

 

 カジノを、適正な規模、適正なルール、適正なガバナンスをもって運営すれば、マリーナベイ・サンズのような壮大なリゾートを経営することができます。例えば、マリーナベイ・サンズの美しい建築や、人をあっと言わせるようなスカイパークはとてもお金がかかるものですが、カジノが十分な収益を生み出すからこそ、そのような設備投資が可能になるのですから、IRにカジノが含まれる意味があるといえるでしょう。

 

日本の政府機関の意思決定のスピードについてどう感じられていますか。

 日本の方々のために日本政府がIR導入の是非を決めるためのプロセスですから、私の立場からは、チャンスがあるなら進出できれば、と願うのみです。機会をいただけるのであれば、日本が誇れるものを造るために邁進します。

 

 シンガポールを鑑みれば、カジノの導入には、リー・クアンユー氏の反対があり、40年以上の年月がかかっています。しかし、シンガポールがIRを導入したのは最良のタイミングでした。そして今が、日本にとってのタイミングだと思います。

 

空中に水平線を出現させた斬新なデザインが話題をさらったホテル棟のインフィニティ・プール
マリーナベイ・サンズの施設のひとつアートサイエンスミュージアム内の、チームラボによる大人も子供も楽しめる常設展示「フューチャーワールド」

 

マリーナベイ・サンズの宿泊者の中では日本人客が最も多いそうですね。

 マリーナベイ・サンズにおける日本人宿泊客の2017年の総宿泊数は全体の16%を占め、2011年以来、一貫して宿泊客の中では最多数となっています。日本人のお客様のご要望にお応えできるように、マリーナベイ・サンズでは日本人の従業員を多数雇用しています。

 

 カジノにも現在58人の日本人ディーラーがおり、これはお客様のためでもあり、また、カジノのマネジメントを経験してもらうためでもあります。現在、日本にカジノは存在しないものなので、カジノ業務経験者が少ないことは想像に難くありません。将来私たちが日本でIRをオープンできた時に、即戦力として働ける日本人のカジノマネジメント経験者が必要となってくるとの考えなのです。

 

これまで、アメリカ、中国、シンガポールの3ヵ国でお仕事を経験されていますが、それぞれの違いをどう感じていらっしゃいますか。

 海外で働くことは、さまざまな文化をより深く知ることができますし、その土地においてのビジネスのやり方についても学ぶことができます。それぞれの国にはそれぞれ違った面があり、やりがいがあって面白いです。

 

ジョージ・タナシェヴィッチ氏
マリーナベイ・サンズ社 社長 兼 CEO ラスベガス・サンズ社 グローバル開発マネージング・ダイレクター

 

マリーナベイのIR開発への入札の際、マリーナベイ・サンズの壮大なプロジェクトの中心となり尽力、落札に導いた立役者で、現在マリーナベイ・サンズ社の経営全般とラスベガス・サンズ社の開発事業の責任者。マリーナベイ・サンズのプロジェクト以前は、不動産投資ファンドの副社長、上級弁護士を経て、シンガポールの不動産複合企業キャピタランドで上級バイスプレジデントを務めたのち、ラスベガス・サンズ社が主導したマカオの大規模カジノプロジェクト「コタイストリップ」事業に関連するさまざまなビジネスをマネージメントした。ミシガン大学卒、ロヨラ大学にて法学士資格取得、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスでMBA取得。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.334(2018年6月1日発行)」に掲載されたものです(取材・写真:パーソン珠美 / 写真: 竹沢 総司)

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