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法律相談

2018年5月27日

Q.シンガポールで汚水ろ過に関する技術開発を長年行っています。先日、他社とは異なる新しい汚水ろ過方法を発明したので、特許を出願したいと考えているのですが、どのような手続になるのでしょうか。

シンガポールでの特許出願の手続について

A: シンガポール特許庁(Intellectual Property Office of Singapore、 以下「IPOS」)への特許出願手続が必要です。手続は、原則として①出願、②予備審査、③出願公開、④調査・審査、⑤特許権付与の流れとなります。

 

①出願
出願の際には、所定の出願書(Application form)、特許明細書(Description)、請求項(Claim)、および発明の要約(Abstract)を提出します。特許明細書には発明の実施方法を、請求項には特許の内容を記載します。出願料はS$160で、オンラインでも出願可能です。

 

②予備審査
出願書類が要件を満たし、出願料を支払ったら、予備審査(Preliminary examination)に入ります。予備審査では、優先権の主張(priority claim:他国での出願が先行している場合は他国での出願日、いわゆる優先日にシンガポールでも出願したと扱われる)の当否、特許明細書の記載の不足などが審査されます。

 

③出願公開
特許出願の詳細は、優先日もしくは出願日から18ヵ月経過後、特許公報(Patent Journal)への掲載により、出願公開されます。より早急に特許を取得したい場合、早期の出願公開も可能ですが、別途申請が必要となります。出願後に考えが変わり、特許を秘密にしたくなった場合は、出願公開までの18ヵ月以内に出願の取り下げができます。最終的に特許権が付与されると、特許侵害に対して権利行使が可能となり、出願公開日からの損害賠償を請求することができます。

 

④調査・審査
調査・審査(Search and Examination)では、まず、審査官は同分野で類似の発明(先行技術:prior art)が存在するか調査します。先行技術が存在した場合は出願特許と比較し、新規性の有無や特許たる要件などが審査されます。この調査・審査には4つのルートがあり、ルートにより期間や費用(S$0~S$3,000)が変わってきます。

 

⑤特許権付与
審査の結果、必要に応じて特許明細の修正や意見書の提出を求められ、完了後、特許権付与(grant)の手続に進みます。IPOSから通知を受けた後、2ヵ月以内に、特許付与証明書の発行申請を行う必要があります。この申請をしないと特許を放棄したとみなされるので注意が必要です。

 

※上記の手続に関わる費用は2018年4月時点のもので、代理人に依頼する場合の費用は別途必要

 

①~⑤の流れで特許が付与されると、出願日から最大20年間保護されます。ただし、5年目以降は、毎年更新の手続が必要となります。

Q:出願から特許権の付与までにどれくらいの期間が必要なのでしょうか。

原則として、2年ないし4年は必要です。特許権が付与されると侵害に対する使用差止や損害賠償請求が可能となりますが、他方で、技術は日々進歩し、出願後、特許権付与までに出願した発明自体が陳腐化し、特許権を取得する意味が失われる事態も生じ得ます。また、出願公開されることで、同業他社などに技術を知られてしまうリスクもあります。これらを考慮し、出願はとりあえず行い、市場動向などを注視しながら手続を進めていくか見極めるのもひとつでしょう。

 

Q:日本で既に特許権を取得している、または日本で出願中の場合も、シンガポールでの特許出願が別途必要なのでしょうか。

シンガポールでの特許出願は必要になります。ただ、シンガポールで優先権の主張が可能な場合、日本での調査・審査の結果をそのままシンガポールの調査・審査に用いる「Supplementary examination」の手続を利用できる可能性があり、その場合は調査・審査段階の費用を低額に抑え、期間を短くすることができます。

 

また、日本でPCT国際出願※を行っている時は、シンガポールでの特許出願ではなく、日本で行ったPCT国際出願のシンガポール国内移行手続(Entry into National Phase stage)を行うことができます。この場合、優先日もしくはPCT国際出願日から30ヵ月以内に、英訳と英訳証明書を準備し、国内移行手続を進めることになります。
※PCT国際出願=特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 仲村 諒

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.334(2018年6月1日発行)」に掲載されたものです。

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