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シンガポール星層解明

2018年3月26日

シンガポールで日本産の野菜と果物が普及する道筋

産出規模に関わらず各地の青果が流通
各都道府県は独自に輸出拡大を促進

 さて、2016年の野菜と果物の産出額でそれぞれトップである北海道と青森県であるが、実際に日本での産出額の多寡とシンガポールでの流通・小売には関係性はあるのか。実態を簡易的に把握する目的で、当地で日本産の青果を販売する主要食品スーパーの5店舗(明治屋、伊勢丹@スコッツ、ドンドンドンキ、コールド・ストレージ@髙島屋、フェアプライス・ファイネスト@スコッツスクエア)にて全青果商品の産地を識別可能な範囲で調べた。その結果、産出額の多寡と流通・小売状況に大きな相関性は見当たらない一方で、野菜においては福岡県、宮崎県、沖縄県、長崎県、果物においては熊本県、長崎県、福岡県、佐賀県といった九州・沖縄各県の商品が幅広く販売されているという興味深い事実が浮かび上がった[図6]。

 

 その背景として、各地方公共団体などが独自施策の展開によって、シンガポールに向けた地元産品の輸出拡大を促進していることが一因と考えられる。例えば、宮崎県は2018年1月にシンガポールの卸業者など6社を「みやざきフレンドリーパートナー」として認定し、県産品の情報を提供することで販路拡大を推進している。また、沖縄県ではJAおきなわが2017年11月に県産の青果や畜産品の輸出を担う「輸出戦略室」を新設しており、シンガポール、台湾、香港に向けた輸出額を2018年には1億円まで、2020年には現在の10倍超となる1.3億円まで伸ばす目標を掲げている。

 

まずは海外進出の目標と計画の策定を
現地消費者に関する分析・洞察は必須

 さて当地で一段の普及が期待される日本産の野菜と果物であるが、折に触れて食品事業者や地方公共団体の海外事業担当者と接する中で、留意すべき課題も浮き彫りになってくる。代表的な課題を3点ほど述べたい。1点目は事業計画および計画性の欠如。日和見的に展示会や物産展、商談への参加を繰り返しては成果が上がらないと嘆かれるケースがあるが、まずは海外進出の目標とそれを達成する計画の有無、またその内容を見直す必要がある。2点目は「プロダクトアウト」思考、すなわち作り手の理論への偏重。現地消費者に関して分析や洞察することなく、売りたい商品をそのまま持ち込むケースがあるが、消費者が顕在的または潜在的に欲しているものを理解せずに商品の販売を見込むことはギャンブルに近い。3点目は現地市場を開拓する専門性の不足。ことさら経営資源に制約のある事業者が海外営業の専任者を置くことは容易ではない中、市場を熟知した現地パートナーから何らかの方法で支援を受けずに成功するハードルは高い。

 

 先行する成功・失敗事例も参考にされつつ、日本の各都道府県が誇る野菜や果物、ひいては食品全般がシンガポールで一層普及していくことを願って、本稿をしめくくりたい。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.332(2018年4月1日発行)」に掲載されたものです。

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