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法律相談

2018年1月31日

Q.現在勤務しているシンガポールの会社から2ヵ月間給料が支払われていません。弁護士に依頼して支払いを求めるには高額な費用が必要です。本人だけで法的請求ができるECT(雇用請求法定)という制度があると聞いたのですが、私でも利用可能でしょうか?

賃金トラブルが起きた際、自ら申し立てができる雇用請求法廷(ECT)とは

A: 支払いを求める給料が原則20,000Sドル以下で、未払いから1年以内の分であればECTの手続を利用できます。

 

Q:ECTのシステムについて具体的に教えてください。

ECTとは、2017年4月1日から運用が開始された雇用請求法廷(Employment Claims Tribunal)のことです。従来の裁判所の手続と比べて、迅速かつ低額な費用で賃金に関する紛争を解決することを目的としています。ECTでは弁護士を代理人とすることができず、本人が出席することになるので、弁護士費用はかかりませんが、その分、手続を十分に理解している必要があります。

 

ECTを利用できる条件は、原則として20,000Sドルまでの賃金に関する紛争となり、労働組合が関わる案件では上限が30,000Sドルとされています。また、雇用関係が終了している場合は退職から6ヵ月以内、雇用関係が継続している場合は紛争の日から1年以内に申し立てる必要があります。

 

Q:実際にECTを利用するときの流れについて教えてください。

まず、ECTへ請求を申し立てる前に、Tripartite Alliance for Dispute Management(通称「TADM」)で調停手続を行う必要があります。この調停で話し合いがまとまれば、会社と従業員の間で合意書を作成します。

 

調停で合意が成立しなかった場合、ECTに請求を申し立てることになります。ECTへの請求申立の費用は、請求が10,000Sドル以下の場合は30Sドル、10,000Sドルを超える場合は60Sドルです(費用は2018年1月現在)。

 

その後、いわゆるCase Management Conference (通称「CMC」)の日時が指定され、CMC開催までに、自らの主張を述べた書面などを提出します。CMCの手続きを進める裁定人(Registrar)にはさまざまな権限が与えられており、例えば一方当事者に証拠開示や証拠提出を命じることがあります。会社側が保有している従業員の出退勤記録などを積極的に提出しない場合は当該命令が下されることがあります。そのほかにも、当事者の一方が出席しなかった場合は、裁定人は欠席命令や請求棄却命令を下すことがあります。

 

Q:CMCで解決しなかった場合は、どうなるのでしょうか。

裁定人は事件を法廷(Tribunal)による聴聞(Hearing)へ進めることになります(さらなる調停を命じることもあります)。聴聞に付された場合は、最終的に、法廷が両当事者に命令(一方の当事者に他方当事者への金銭もしくは費用の支払いを命じる、請求の一部または全部を棄却する等)を下すことになります。この命令を下す際に考慮される事項として、請求の本質、金額、請求の裏付けとなる関係書類などに加えて、各当事者の和解に向けた努力も含まれます。つまり、自らの主張を貫くだけでなく、話し合いでの解決に向けて一定の努力を示すことも必要となってきます。

 

なお、ECTでは手続のどの段階であっても、当事者に調停を命じることができるとされています。この命令に従わなかった当事者は、20,000Sドルを上限とする罰金が科せられるなど重いペナルティが科せられますので、調停を命じられた場合は常に対応しなければなりません。

 

Q:ECTを利用するうえで注意点があれば教えてください。

ECTでは従業員本人が手続を行うため、どのような内容の書面を提出すべきかなど判断がつきにくい場面がいくつかあります。裁定人等はあくまで中立の立場ですのでアドバイスを受けることはできません。場合によっては、費用との兼合いを考えながら、重要な点のみ法律事務所に相談するなど、部分的に法律家の助言を得たほうが安全でしょう。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 仲村 諒

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.330(2018年2月1日発行)」に掲載されたものです。

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