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座談会

2017年11月24日

成功のかげに失敗もある、ASEAN4ヵ国における日系企業の進出&撤退の今

市場調査不足に日本依存体質
撤退企業に共通する理由

AsiaX:みな、そこに需要があると踏んで進出するのだと思うのですが、成功する企業とそうでない企業とが出るのは、なぜなのでしょう?

 

洞:ミャンマーで現状、早くも撤退を考えている企業の理由はシンプルで、仕事がない、ってことですね。ブームに乗って進出したのはいいものの、インフラなど、国の成長の基盤の整備は一朝一夕には進みませんし、そういう助走期間に一気に企業が増えてしまったので、競合も多く、売り上げが立っていない企業もあります。一方で、上昇傾向とはいえ、未だ人件費は安いので、日本で仕事を取って、開発を現地で行っているオフショア開発IT系や、前述のティラワの開業でいよいよこれからという段階の製造業には、撤退の雰囲気はないですね。

 

大曽根:ライバル会社が進出したから、よし我が社も!って、勢いで出てきてしまうケースって、意外とありますよね。

 

洞:そうそう。たとえば、業種によっては、現地企業との合弁事業での進出が求められるのですが、そういうことをよく知らずに進出を決める企業があるくらい……。改善の方向にはあるものの、明文にない外資規制も多く存在してきたミャンマーですから、仕方がない部分もありますが……。

 

小林:先ほども言いましたが、市場調査不足は一因としてありますよね。

 

坂田:シンガポールはコストが高いから、コストが抑えられる他国に移りましょう……と、あまり深く考えないで移ってしまう企業は、結局、移転先で、日系企業同士で顧客を取り合う状態になって、売り上げに伸び悩み、赤字を垂れ流し、資金回収できずに再び撤退を余儀なくされてしまう。

 

藤永:私は以前、坂田さんが話していた理由にも納得しましたよ。格安航空(LCC)の需要が増えたのも背景にあるのではないか、という。

 

坂田:あ、その話しましたね。ひと昔前は日本へ一時帰国するために航空運賃が10数万円かかっていたのが、いまや数万円で帰れるように。日本食はバンコクで食べなくても帰国した時でいい、髪を切るのも帰国時に今まで通っていたサロンに行くまで我慢しようかなと、現地駐在員の日系サービス業へのニーズが減ってきているのではないか、と。

 

大曽根:飲食店やサロンは、日本人同士での競合に疲弊しているような気がします。5年前は新規オープン20%オフだったのが、最近では50%オフまで価格を下げるところが出てきて、そこに基準を合わせてしまう。欧米企業はプライシングが上手で、利益計画を立案しながら、原価利益の調整や継続的な収益を見込める契約に変化させていきますが、日系企業はライバルが増えるごとに「価格を下げなきゃ」と、自ら首を絞めている印象があります。

 

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管理面も営業も、顧客ターゲットも
「現地化」こそ成功の鍵

洞:顧客ターゲットを日本人にするのか、ローカルにするのか、あるいは日本以外の外国人にするのかは重要ですね。

 

大曽根:日本人かローカルかといえば、社内のスタッフ構成やパートナー企業にも同じことが言えると思いませんか?日本人を雇うとどうしても人件費がかかる。バックオフィスやサポート企業を日本人で固めるとコストがかかってしまって、提供するサービスの価格が下げられず、結果、ローカルの競合企業に勝てない。

 

AsiaX:おっしゃるとおり。日本人って、日本人同士で固まってしまうところがありますよね。海外にいるのに日本から絨毯を引っぱってきて、その上でだけ商売をしているような気がするのです。要は活動する場所を海外に移しただけ。

 

藤永:真のグローバリゼーションとは言えないですね。

 

坂田:たしかに、バックオフィスの「現地化」は必要です。日本人を多く配置できる企業であれば経理・財務関係の専任を駐在させ、本社がフォローすることでうまくいきます。でも必ずしも専任が配置できるわけではありませんから、そうなったら、現地の人を育ててマネジメント側に加えていくことが大事です。

 

小林:大きな声では言えませんが、ベトナムにはアンダーグラウンドの世界があって、そういう部分と折り合いをつけるにも、ローカルスタッフの協力は必須。

 

坂田:工場のライセンスを取ったり、認可申請を取ったり。ビジネスを進めるなかで、日本人にはタイ語など現地語のネックもあって、入っていけなかったりもしますし。

 

洞:そういえばアンダーグラウンドというと、やはり古くからミャンマーに進出し、経済制裁時にも撤退せずに生き抜いてきたなんてところは、覚悟を決めて、郷に従ってきたという面はあるでしょうね。

 

大曽根:根性ありますね!ある意味での現地化とも言える。

 

AsiaX:シンガポールは今年の1月に就労ビザ(EP)が新基準となって、日本人や外国人を雇用することが難しくなりました。シンガポールで運営するうえで日本人の雇用はマストだと思われますか?

 

大曽根:必ずしもそうは思わないですね。ローカルの人材のほうが日本人よりマーケットに詳しく、ローカルスタッフのマネジメントが上手だったりもしますし。現在のビザ基準を鑑みれば、日本人でなければいけない業務を精査し、ローカルスタッフに移管せざるをえないのではないでしょうか。

 

洞:私自身が会社を経営していて感じるのは、海外で会社を長く存続させるには、自社のスタッフもそうですし、顧客の国別比でもそうなのですが、意識的に日本の割合を下げることが鍵だということ。スタッフはローカルに限らず、たとえば欧米人でもいいのです。それくらい人の構成を動かして、スタッフの先にいる国別のクライアントのマーケットを広げていかねばなりません。

 

小林:私も、日本人に依存しない体質づくりは重要だと考えます。ベトナムには日本人が一人もいない日系企業が存在したりするのです。日本への留学経験を持つ人や、日本本社で実習を経た人など、日本文化や風習に理解がある人材を、本社との間に立たせているからこそ、うまくいっているのではないでしょうか。

 

海外進出を成功に導くために
専門家からの提言

 

AsiaX:だんだん、成功の秘訣が見えてきました。さて、最後の質問です。これからASEAN諸国へ進出をしようと考えている方々に、メッセージをいただけますか?

 

坂田:まず第一に、昔と違って、日本ブランドを携えて海外に出れば儲かる時代ではないことを認識していただきたいです。情報化社会が進み、日本からでもある程度の下調べはできますが、たとえば我々のような会計士含め、みな、ウェブサイトに堂々とマイナス面を書くことはできません。なので実際に進出を考えるならば、一度、現地を訪れて、自分の目で見た後に決めることが重要です。

 

小林:そう、繰り返しになりますが、事前調査をもっと入念に。ベトナムは人件費が安いので製造拠点としてオフショア開発に来るのであれば、スケールメリットが出しやすいのですが、マーケット狙いの商社や飲食業は苦労しているので、そういった実情をきちんと調べましょう。

 

洞:立場的には進出を煽りたい気持ちもありますが(笑)、お二人のおっしゃるとおりで、一にも二にも、リサーチですね。JETROのHPで税率だけ見てきたはいいものの、現地ではそんな運用はされていなかった、なんてことは普通にあります。残念ながらリサーチ不足のまま、すでに進出を果たした企業に関しては、無理だと感じたら、場合によっては撤退する勇気も持って欲しい。

 

大曽根:わかります。痛みが少なくなる施策の優先順位が撤退であるならば、撤退の選択は大切です。大事なのは生き続けることですから。日系企業は損切りが苦手な企業が多いのですが、自国に戻るにしろ、他国へ移るにしろ、撤退基準を設けておくと良いと思います。

 

坂田:ローカルに根ざした形での展開を模索してもらいたいし、そういう相談に乗ることができる専門家も、ぜひ、頼ってもらいたいですね。

 

藤永:たしかに、ここに頼もしい方々が勢ぞろいしてますね。今日は言いづらいこともあったかと思います。貴重なお話をありがとうございました!

 

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この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.328(2017年12月1日発行)」に掲載されたものです。

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