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座談会

2017年11月24日

成功のかげに失敗もある、ASEAN4ヵ国における日系企業の進出&撤退の今

進出ラッシュはそれぞれいつ起きた?
業種のニーズによって異なる進出先

藤永:ついに実現しましたね、企業の進出と撤退のテーマ!ASEAN諸国への日系企業の進出が続きましたが、昨今は撤退される企業も見受けられるようになり、これをテーマに座談会を開きたいと思っていたのです。が、撤退企業に直接話を聞くことは難しく、誌面をどう展開させるか、方法を思案してきたのですよね。

 

AsiaX:海外進出は難しいぞ、というマイナス面を強調したいわけではなく、成功と失敗の明暗を分けたものは何かを伝えられたら、海外進出をこれから検討する方の役に立つのでは、と思ったのです。

 

藤永:そこでお集まりいただいたのが、ASEANで活躍されている会計士と会計事務所経営者の皆さんです。各国の進出や撤退の概況等をお話しいただこうと。

 

AsiaX:はい、まずはみなさんが担当されている国の概況から伺えますか?

 

洞:じゃあ、まずは私から。ミャンマーに日系企業の進出ラッシュが初めに起きたのは、第一次ミャンマーブームと呼ばれる1990年代です。人件費の安さに目を付けた軽工業(縫製業等)や政府開発援助(ODA)に狙いを定めたゼネコンが進出してきました。が、その後の1997年にはアジア通貨危機や、米国による経済制裁もあり、みな、いったん自国へ引き揚げることに。

 

大曽根:ということは再び外資系企業がミャンマーに戻るのは民政化以降ですね?

 

洞:はい、2011年に新政府によって民政移管が果たされ、日系企業も戻ってきました。この時から順調に進出数を伸ばした業種は、やはりODAや工場建設狙いの建設業。そして、電気、水、道路などのインフラが整い、製造業が本格的に動き出すことを予測した物流系企業も多く進出しました。

 

藤永:そんなに一気に進出して、大丈夫だったのですか?

 

洞:いやいや、各社、苦労されています。たとえば、建設業のなかでも、仕事を受注してきちんと動けているのは一部だと思います。2015年にティラワ経済特別区が開業しここで稼働する製造業の進出が始まって、すでに待ち構えていた物流業各社も、ティラワ関連の仕事を獲得しに動き始めました。それにしても、いかんせん市場のパイに対して、物流企業の進出数が多い感は否めません。上手く棲み分けられればいいのですが、やはり仕事が受注できる企業と、できない企業に分かれていくかなと。

 

坂田:ミャンマーは製造業が後発なのですね。タイは逆で、製造業が中心となっていて、進出企業の50%近くに相当します。

 

小林:そうか、タイは自動車産業だからですね。

 

坂田:そのとおりです。自国で自動車製造を行わないことから、1960年代に日系自動車メーカーが進出し、それに伴って部材や原材料を供給する会社が紐付いて進出してきたのです。在留邦人が7〜8万人いるので、彼らをターゲットにした日系飲食店の比率も上がっています。

 

藤永:一見すると、うまく回っているようですが……。

 

坂田:2009年から2012年あたりは進出ラッシュでプチ・バブル状態だったのですが、人件費が上がったり、日系企業が8,000社近くなってしまったために新規営業をかける先がなくなったりと、キャッシュフロー的にお金がもたず、本国の親会社がギブアップして撤退、というケースが増加中です。

 

大曽根:2012年前後はシンガポールも進出ブームでした。統括会社やIT企業の進出が多かったです。当時はシンガポール政府系ベンチャーキャピタルに日本担当がいて、熱心に誘致活動をしていました。が、あれから5年、IT企業や飲食業等のサービス業はかなりの数が撤退しています。

 

AsiaX:シンガポールは法人税に関する利点が多いですものね。

 

大曽根:シンガポールは外国資本100%で会社設立できるので他のASEAN諸国に比べて参入障壁が低いです。ただし結局、税金は安くとも人件費や家賃は高くて思ったより利益が上がらなかったり、参入企業が多いぶん競争が激しく、うまくキャッシュを回せなかった会社は撤退せざるをえませんでした。

 

洞:そういう方々って、日本へ完全撤退しているのですか?

 

大曽根:製造業や美容サロンなどのなかには、バンコクへの移転組もいますね。新しい法律でタイ投資委員会(BOI)が新投資奨励制度を発布し、それに認められると外国資本100%で会社が設立できるようになったので、人件費やコストを比較するとタイのほうが良いと考えるようです。

 

坂田:移転といえば、バンコクのIT企業はいま、どんどんベトナムに移っているような。人件費が安いのと、優秀なエンジニアがそろっているから。

 

小林:たしかにその流れはありますね。ベトナム政府がIT企業の誘致を行っていて、15年間の優遇税制が適用されることも要因の1つです。ただ人件費が高騰しているので、「ベトナムのIT企業の優位性もあと数年」という見方もありますね。

 

AsiaX:ベトナムはITや製造業など進出が続いているように見えますが、この先も堅調かはわからない、と?

 

小林:ベトナムへは安価な労働力を求めた製造業の進出が1990年代に始まりました。アジア通貨危機とリーマンショック(2008年)によって一時停滞したものの、製造業のほか、IT、サービス業と、現在も進出が続いています。しかし魅力であるはずの人件費が想定外に高騰していまして。それに加え、移管してきた仕事量の少なさから固定費の回収ができない、部品の現地調達ができずに輸送費がかかっているなどの理由から、ベトナムに拠点を移したもののコストが下げられず、撤退する企業が出てきています。

 

藤永:ということは、撤退しているのは製造業やIT系ですか?

 

小林:商社やサービス業にも、撤退ケースはありますよ。彼らの目的は新規市場開拓ですが、リサーチ不足やマーケティングの失敗などから、蓋を開けてみたら市場にクライアントはいなかった、という感じで2〜3年で戻っていきます。

 

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