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シンガポール星層解明

2017年10月26日

スマホが変える、シンガポールの恋愛・結婚・家族・社会

デートアプリは晩婚化に諸刃の剣
コモディティ化する交際相手

シンガポールでも人気が高いTinder以外にも、2013年にサービスが開始されたシンガポール発のPaktor(パクトル)やその他の複数のデートアプリは、学校や職場などでの出会いに限りがある独身者が交際相手を探す際には一定の利用価値があるとみている。一方で、日常生活で異性との出会いに溢れる独身者にとっては、デートアプリは使い方次第では心ならずも交際をする上での障壁となり、結果的に晩婚化の要因となっている可能性がある。

 

つまり恋愛や結婚の相手を探す過程において、本来であれば時間をかけてお互いを理解し、相手にコミットメントを示したうえで深い関係を醸成していくべきところを、スマホの画面上で指先一本で相手とコミュニケーションを取ることができ、なおかつネット上に無限に近い数の代替の相手が存在するが故に、利用者は相手のうわべの理解さえままならないうちに身勝手な都合で関係性をリセットしてしまうことが危惧されている。このように仮想のゲームに近い感覚で恋愛や結婚の相手を安易に探せるアプリの登場によって、潜在的な交際相手がコモディティ(繰り返し消費できる商品)と化してしまい、結婚どころか交際さえも長続きしないことが懸念される。

 

諸刃の剣と成り得るデートアプリの普及を反映してか、前述の2016年の意識調査では、シンガポールの独身者の59%は結婚を前提とした真剣な交際をしておらず、またそのうちの69%はこれまでに一度も真剣な交際をしたことがないという結果が出ており、その割合は2012年の62%から増加している。

 

このような状況に対してはシンガポール政府も問題意識を持っており、デートできる環境の整備、家族に優しい職場づくり、および就学前のサポートの改善に取り組んでいく考えを表明している。

 

スマホが理由で別れるカップルも
スマホと「スマート」に付き合う重要性

さて、シンガポールで異人種間を中心に離婚件数が増加している点は前述の通りであるが、スマホの存在が離婚の理由にも影響を与えていることを示唆する興味深いデータがある。2016年に大手生命保険会社の英プルデンシャルが実施した調査によると、シンガポールの夫婦の間で口論をする理由として、子供(46%)、お金(41%)、家事(29%)に関する内容に続けてスマホ・パソコンの使い過ぎ(28%)が挙げられているのだ。さらに同調査では、シンガポール人の約3分の1は、パートナーは時には自分よりスマホと一緒にいることを望んでいると回答しており、スマホが男女間の関係性において無視できない影響力を持っている実態が理解できる。

 

スマホの登場でコミュニケーションをはじめとして人々の生活が格段に便利になったことは言うまでもない。一方でこれまで述べてきた通り、スマホは晩婚化や離婚を潜在的に助長するだけではなく、例えばレストランで一家4人がそれぞれ個別のスマホを眺めながら食事をしている気の毒な場面に日常的に遭遇するなど、スマホの普及率が世界最高の水準にあるシンガポールでは、スマホへの依存や過度な利用が社会や家庭に及ぼす負の影響がなおざりにできない水準にまで達しているとみている。

 

子供に対しては利用時間やアクセスを制限するなどしてスマホとの適切な付き合い方を啓蒙する動きが一般的となっているが、大人においても、スマホと「スマート」に付き合っていくことが求められる時代になってきている点を強調して本稿の結びとしたい。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.327(2017年11月1日発行)」に掲載されたものです。

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