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座談会

2017年10月26日

スマートシティ実現最速国の呼び声高い、シンガポールの都市開発の歴史と今

ローカルの声に耳を傾ける
求められる未来像

 

鳥羽:たしかに、ローカルとの対話は非常に重要ですね。前述のジュロン地区のコンペの際、政府と密に話をしました。彼らが今、もっとも気になるものは何かと尋ねたところ、いくつか課題が浮き彫りに。1つはサステナブル。資源も食料も水もない環境で、どう国を維持していくか。そしてもう1つがエイジングでした。

 

田中:エイジング!!

 

鳥羽:HDBは核家族化が進んでいます。また、1階のピロティで年配の方が1人でお茶を飲んでいる姿を見かけることがありますよね。日本以上に急速に高齢化が進んでいるため、シニアに向けた設備を考えることは必須。さらに食料自給も叶えられるようなアイディアを考えていく必要がある。そこでたとえばですが、各HDBの屋上を緑化ならぬ畑化する。アーバン・ファーミングを作って、コミュニケーションを図れる場にするのです。

 

木村:なるほど。HDBはエスニック・ミックスも求められていますね。先ほど鳥羽さんがおっしゃっていましたが、イギリス植民地時代はマレー系、中華系、インド系などが分断統治されていました。現在は、これとは逆に、彼らが交われるように、HDBは何%どの人種を増やす、といったように決まっている。が、実際はこの実現がなかなか難しい……。

 

鳥羽:彼らの間の垣根が自然となくなるのが理想的ですよね。そのトリガーとなるのが、畑のような自然だったり、スポーツだったりする。よって、それらを楽しめる施設を今後我々が提案する都市計画にも取り入れていきたいと思っています。

 

木村:そういえば、シンガポールのスマートシティに関する番組を観たのですけどね、信号の規制に人工知能(AI)を導入し、それらが交通量を検知・車の流れを把握して信号の切り替わるタイミングを変えることを実現していたり、公共交通機関用のez-linkカードのビッグデータを取得して人の流れを把握することで最適な交通路の検討資料にしていますね。

 

田中:AIから得たビッグデータを分析して、都市として何が必要か、最適なのかなど、スマートシティ実現に役立てるための動きはもう始まっていますよね。

 

AsiaX:データ取得で思い出しましたが、一説によるとシンガポールでは検問なしで飲酒運転を取り締まれるようですよ。車のGPSで行動データを取得して、当該車両をピンポイントで御用にするという(苦笑)。皆さんの個人的なご意見で構わないのですが、シンガポール、および近隣諸国における都市開発において、今後の展望やどう関わっていきたいかなどをうかがえますか。

 

堤:当社は、東南アジアでのさらなる不動産事業の拡大を目指して、100%子会社のMBK Real Estate Asiaをシンガポールに設立し、今年10月から本格稼働させています。同社を通じて、引き続き、注力国であるシンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムにおいて、ローカルの企業とともに、オフィスビルと産業施設の開発事業を積極的に展開させていきたいと思っています。

 

田中:そうですね、堤さんがおっしゃるように、アジアは国が違えば為替もリスクも違う。ですからそれぞれを個別に膨らませていくことが重要なのかなと考えています。日本人が出張っていくだけじゃなく、ローカルと協業して、シナジー効果を楽しみながら進めるのが良さそうです。

 

鳥羽:私も皆さんと同じ視点ではありますが、東南アジア諸国ではどの国においても我々が長年培ってきた開発やデザインのノウハウを使えるのが面白い。特に力を入れたいのはTransit Oriented Development(TOD)に関する案件。一般的に公共交通機関の発展は初期に行われますが、東南アジアはそれらが今まさに行われているところ。となると我々が得意とする駅前開発事業が展開できるのです。

 

田中:電車といえば、東京で電車を利用すると、当地とは違って駅舎内や地下通路を延々と歩いている気がするのですが。

 

鳥羽:東京は街やビルができあがったところに駅を設けたので、複雑になってしまったのです。一方、関西は駅を中心に地下道を造ったので、わりとシンプルですよね。シンガポールはすでに地上が埋まっていますから、これからは地下開発を始めるべきなのかもしれませんね。

 

木村:埋め立てについて近隣諸国からいろいろ言われたため、これ以上、地上を広げられませんしねえ。とはいえ、地下開発はお金がかかる……。

 

堤:そういう進化や状況に合わせて、我々も変わっていかねばならないのでしょうね。今日は私まで勉強になりました。ありがとうございました!

 

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この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.327(2017年11月1日発行)」に掲載されたものです。

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