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座談会

2017年7月26日

シンガポールでの人事考課制度のあり方とは?

シンガポール人を確保し
適正な人事考課を行うには?

 

AsiaX:シンガポール政府は、エンプロイメント・パス(EP)の発給要件を厳しくする一方、外国企業に対しシンガポール人を優先的に雇うことを求める方針を明確にしています。こうした中、日系企業にとって優秀なシンガポール人を採用し育成していくことはますます重要になっており、人事考課のあり方にも影響を及ぼしてくるのではないでしょうか。
シンガポール人の採用について考えるにあたり、日本人とシンガポール人とで、仕事への意識にどのような違いがあるとお考えか、お聞きしたいと思います。

 

平松:離職率は、会社が「嫌だから退職する」というPushing ファクターと、競合他社が高い処遇で引き抜こうとするPullingファクターの組み合わせによって上下すると考えています。シンガポールの人材マーケットは流動性が高いためPullingファクターは恒常的に高く、シンガポール人は「上司との相性が悪ければそれを長年かけて説得したり我慢したりするより、自分にあった会社へ転職する」といったメンタリティが根底にあると認識すべきです。また、単にシンガポール人の採用人数を増やすだけでなく、どのように人材育成しどのようなポジションへ登用していくかという中長期的な方針を立てて対応することが重要と考えます。

 

池上:シンガポールの人材マーケットは流動的であり、採用側が必要な経験・スキルを持った人材も限られるのが現状だと思います。日本人会では、日本語や日本の文化を理解しているシンガポール人を採用したいと常日頃から考えていますが、そのような人材を見つけることは難しいのが現状です。また、シンガポール人の職員に長く働いてもらうにためにはどうすればいいかは常に考えています。

 

前田:シンガポールの場合、ひとつの企業に長く勤める人と、数年で転職する人が両極端という印象を受けます。給料が高い企業に人材が引っ張られてしまいがちなのが、シンガポール人の採用を考えるうえで難しいところですね。ただ、短いスパンで転職する人を見ていると、職を転々としているため専門分野での下積みができておらず、年齢に見合うスキルや経験が身についていないのではないかと感じることもあります。

 

田尾:シンガポール人の人材をどう確保するか、これは難しい問題です。現在のシンガポールは超売り手市場であり、1人の求職者を2社以上で奪い合っているような状況です。優秀な人の多くは、政府系や外資系企業に就職する傾向がありますし、一方で日系企業自体がシンガポール人から就職先として人気がないのも問題です。なかなか良い人材を採用できず、採用してもすぐ辞められてしまうのは、日系企業の構造的な問題だと思います。

 

AsiaX:日系企業がシンガポール人から人気がない理由には、人事考課のあり方にも一因があるのでしょうか。

 

田尾:日系企業には、年功序列的な考え方が残っているところも依然として多く、頑張っても責任のあるポストに就けないという不満を持つ人が多いように思います。その人自身のパフォーマンスが評価されない状況も多く、それに納得できず離職してしまうケースも見られます。
もちろん、すべての日系企業に年功序列的な考え方がある訳ではありません。一部のITベンチャーなどでは、若いうちからチャンスが与えられ、頑張れば早いタイミングで給料に反映される仕組みになっています。日系企業の間でも、取り組みには差があるといえるでしょう。

 

AsiaX:シンガポールで、人事考課制度を構築するうえでのポイントについて教えてください。

 

田尾:人事考課の頻度が大切です。われわれは四半期ごとに評価し半期ごとに給料の査定をすることをお勧めしています。一般的な日系企業では半期ごとに評価、1年ごとに査定を行っているところが多く、およそ2倍のスピードということになります。昇給のチャンスが年2回の会社と1回の会社があれば、優秀な人はほぼ間違いなく前者を選ぶでしょう。
成果目標の達成度合いとプロセスの両方をバランスよく評価することも大事です。どちらにどれだけウエイトを置くかは、職種や役職によって決めていくといいでしょう。例えば、営業なら成果の比重を高めるといった考え方が基本になります。

 

平松:評価のスパンを短くすることは、目先の利益だけを追い求めた行動に走りがちになり、長期的に顧客との信頼関係を築いていくといったモチベーションが低下するという弊害もあるのではないかと思います。短いスパンで人事考課を行う場合、長期的な目標はどう評価項目に盛り込めばいいのでしょうか。

 

田尾:顧客との関係構築を目指す場合、年間の目標を4分割し、3ヵ月で何をしなければいけないかマイルストーンを置くようにすると効果的です。高校受験を例にとると分かりやすいです。例えば、3年後の試験に合格するという漠然とした目標を掲げるより、1週間後にドリルで100点を取るという目標を設定し、それを繰り返しクリアすることを目指したほうが良い結果を出せるはずです。

 

AsiaX:シンガポールの日系企業の多くは社員数が少なく「なかなか人事考課のことにまで手が回らない」というところも多いように思えます。小さな会社でも簡単に始められる取り組みとして、どんなことがありますか。

 

田尾:経営者と従業員で定期的に面談をすることを推奨しています。それぞれの従業員が今どういう状況にあるのか、1人30分ずつでも時間をとってみてはいかがでしょうか。小さな会社なら、それほど時間もかからないはずです。
従業員の現状を把握することで、企業としても次の一手が打ちやすくなります。また従業員に対して、会社としてどういった方向に向かっていて、その人に何を求めているかをしっかりと伝えることは大切なことです。3ヵ月に1回でも、面談の場を設けて進捗を確認するだけで従業員の動きは変わってくるものですし、組織の膿を出していくこともできるでしょう。

 

AsiaX:小さな企業であっても、工夫次第で人材の定着率を高め、パフォーマンスを向上させることは十分にできるのではないかと考えさせられます。小さなことからでも、まずは始めてみることが大事なのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

 

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この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.324(2017年8月1日発行)」に掲載されたものです。

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