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座談会

2017年6月23日

シンガポール個人所得税の注意点とは?

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AsiaX:知り合いの会社で新しく雇われた従業員が、前の勤め先で発生した所得税を滞納していたため、新しい勤め先である会社にIRASから所得税を給与から天引きして納付するよう指示する通知が送られてきたと聞きました。このようなことが起きないため、会社側が取るべき対応について教えて下さい。

 

斯波:その人を採用する前に、前の勤務先で所得税の支払いをきちんと済ませているかを確認するとよいでしょう。賦課決定通知書と合わせて、納付の記録を見せてもらうようにすれば、より確実でしょう。所得税が未納であることが分かった場合には、その人に支払う最初の月の給料から天引きしてIRASに納付すればよいでしょう。

 

AsiaX:就労ビザの発行日と実際にシンガポールで働き始めた日が一致しない場合、シンガポールで申告する所得は、就労ビザの期間に合わせた方がよいのでしょうか。

 

斯波:外国人雇用法では、就労ビザの取得が免除される特殊な職種の短期就労(ただし、MOMへの届け出が必要)を除き、就労ビザがない状態で一日でもシンガポールで働くことは禁じられています。ですが、何らかの事情により発行された就労ビザの期間と実際にシンガポールで働いた期間が一致しなかった場合、所得税の申告に関しては、実際に働いた期間に従って申告するのが正しい申告方法です。

 

シンガポールでの課税項目は?

 

AsiaX:所得税について、現地採用者と駐在員で違いはありますか。

 

斯波:現地採用者の場合、給与体系は比較的シンプルですが、駐在員の場合には、シンガポールで受け取る現地給与以外に、本社から日本の口座に振り込まれる給与や日本の社会保険料、会社が負担する住居の家賃や子供の学校の授業料、社用車やゴルフクラブの会員権など支払元が複数あるほか、課税対象となる現物給与も多くあるので注意が必要です。
駐在員の方が、日本の口座に振り込まれた給与も課税対象であることを知らずに、シンガポールで受け取った現地給与のみを給与として申告していたため、申告漏れを指摘されて追徴課税を受けたというような事例もあります。シンガポールで働いたことによって得た所得は、日本から支払われたものでも全てシンガポールで発生した所得と見なされて申告する必要があるので、注意しましょう。

 

AsiaX:シンガポールは日本と違い、現物給与に対する課税が多いのも特徴ですが、どのようなものが課税対象の現物給与となるのか、簡単に知る方法はありますか。

 

斯波:現物給与については、「Form IR8A」とは別に「Appendix 8A」と呼ばれる証明書を発行することになっていますので、そこに記載された項目を見るとどのようなものが課税対象になるか知ることができます。

 

AsiaX:出張手当も課税対象になるのでしょうか。

 

斯波:原則として課税対象になります。ただ、IRASが国ごとに出張手当の限度額を決めており、出張手当の金額がそれを超えなければ免税、超える場合はその差額分について課税されます。

 

古川:ストックオプションは課税対象になるのでしょうか。課税される場合、どの金額が所得になるのでしょうか。

 

斯波:シンガポールで働いている間に付与されたストックオプションは、課税対象になります。付与されたオプションをシンガポールにいる間に行使した場合、株価と行使価額との差額が利益となり、その分に対して課税されます。未上場企業など株式の市場価額が算定できない場合には、一株当たりの純資産を株価として使用します。行使せずに帰国する場合には、帰国時の株価と行使価額との差額を所得と見なして課税します。欧米企業の場合、日系企業に比べてストックオプションを含む株式報酬の制度が充実しているので、注意が必要です。

 

AsiaX:企業が従業員に乗用車を貸与した場合、個人所得税の課税対象になりますよね。では、従業員が自分で買った乗用車を仕事のために使用した場合、減価償却費や自分で負担した道路税などについて、給与所得から控除することはできるのでしょうか。

 

斯波:シンガポールでは、個人も法人も乗用車に関する支出は所得控除の対象にはなりません。ただし、自分が所有する乗用車を運転して業務で客先を訪問し、走行距離に応じた実費相当分の払い戻しを会社から受けたような場合、その金額は課税対象にはなりません。

 

AsiaX:駐在員の場合、会社が一時帰国費用を負担することがありますが、こちらについても課税されるのでしょうか。

 

斯波:一時帰国費用については、外国人にとっての必要経費であるとして、これまでは費用の全額に課税するのではなく、本人と配偶者は年1回、子供は年2回までの帰省は、会社が負担した実費の20%、それを越える回数は全額が課税対象とされていました。しかし、所得税法が改正され、2018賦課年度(2017年の所得)からは帰省の回数に関係なく全額が課税対象となります。

 

AsiaX:シンガポールという国の立地上、複数の国をまたいで兼務することも多いと思います。例えばシンガポールとマレーシアを行き来している人の場合、所得税はどちらの国に、どのくらいの割合で支払うものなのでしょうか。滞在日数などが関係してくるのでしょうか。

 

斯波:これはケースバイケースですね。極端な話をすれば、どちらの国からも給与所得の全額について課税される可能性もあります。例えば、営業上のつながりが密接なシンガポールとマレーシアのグループ会社を兼務することになった場合、シンガポールの税務当局は「シンガポールの会社の業務の一環としてマレーシアに出張しているのだから、受け取った給与所得は全てシンガポールが源泉地であり、シンガポールで申告すべきである」と判断する一方で、マレーシアの税務当局も同じようにその給与所得は全てマレーシアが源泉地であると判断するケースが考えられるからです。
そのような事態を避けるには、兼務する際にシンガポールとマレーシアのそれぞれの会社での業務や待遇を明確に区別して雇用契約書などの文書に残し、シンガポールではシンガポールの会社の業務、マレーシアではマレーシアの会社の業務を行い、報酬もそれぞれの会社から別々に受け取るなど、曖昧にならないようにする必要があるでしょう。また、給与などの雇用条件を決める際には、それぞれの国の就労ビザの要件を満たすことも重要です。

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