シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPチャンギ国際空港の開発最前線

星・見聞録

2017年5月31日

チャンギ国際空港の開発最前線

3.オペレーション効率化へ革新的な技術も導入

シンガポール政府は、国内における生産年齢人口の減少などを背景にICT技術などの活用による生産性向上を図っている。チャンギ空港でも設備の拡張とともに、オペレーションの効率化や省力化に向けた革新的な技術が多数導入される見通しだ。

 

CAASは航空業界産業転換マップ発表、「スマート管制塔」など最新技術を多数導入

シンガポール民間航空局(CAAS)は今年4月、空運業界の産業転換マップを発表、運営の効率化や旅客の利便性向上に向け、チャンギ国際空港に最新技術を積極的に導入していく方針を示している。具体的には、搭乗橋の自動化や航空機のパーツ生産における3Dプリンターの活用、ドローンの導入などが含まれており、2025年までに40%の生産性向上を目指す方針だ。

 

これらの取り組みの一環として、チャンギに「スマート管制塔」を導入し航空管制を遠隔操作する計画が進められている。スマート管制塔は、目視ではなくディスプレイパネルに表示された画像を元に管制を行うというもので、遅延の削減や航空機燃料の節約などが期待できるという。

 

セルフチェックインシステムの導入で人員削減、第1ターミナルの増設工事は年内完工の予定

セルフチェックインサービスの拡張も同マップのテーマのひとつ。空港内における設備の拡張、複雑化が進む中、CAGはこれまでも第1~3ターミナルでFAST(Fast and Seamless Travel)と呼ばれるプログラムを展開、セルフチェックインシステムの導入を推進してきた。

 

第1ターミナルではセルフチェックインシステムの増設工事が行われ、5月に稼働を開始している。搭乗手続きの自動化を進めることで、利用客のカウンターでの待ち時間が短縮され混雑の緩和が見込めるうえ、省力化にも期待できる。また第4ターミナルでは営業開始時から館内の全てで、セルフチェックインシステムが利用できる見通しだ。

 

322web_IMG_5890
322web_IMG_5932

CAGの「生きた実験室」プロジェクト、オートメーション技術やIoT導入など推進

このほかCAASの産業転換マップには、CAGによる「生きた実験室」プロジェクトも含まれている。これはCAGが経済開発庁(EDB)と提携し、国内外の大学や研究機関、革新的な技術を持つ民間企業と協働、自動化やデータ分析のほか、警備技術、情報技術を活用したインフラ管理などに取り組むというもの。CAGは今年1月、5,000万Sドル(約40億円)を投じ技術開発のための5ヵ年計画に着手すると発表した。

 

研究対象はFASTを含めたオートメーション技術のほか、ロボット、データ分析、IoT(モノのインターネット)など。実際の取り組みのひとつに、タクシー乗り場での混雑状況を分析し待ち時間を算出、また他の適切な移動手段について旅客に情報提供するといったものがある。旅客のターミナル間の移動に、自動運転車両を利用することも検討するという。

 

村田機械は清掃用ロボット納入
CAGの取り組みには日系企業も関わっている。ロジスティクスシステムや工作機械などの製造・販売を手がける村田機械は、2016年に自律走行式のロボット床面洗浄機「Buddy(バディー)」を同空港に納入、現在は第3ターミナルで、乗客数が少ない深夜帯を中心に2台が稼働中だ。

 

Buddyには、清掃させたい場所を一度周回するだけで障害物を避けながら作業効率の良い走行経路を自動的に決められる機能があり、事前にオペレータが手動で走行させることで、熟練した作業員と同レベルの作業が可能になるという。同社によると今年7月頃には機体をアップグレードする予定があり、機動性を高めた改良版を乗客の多い昼間に、より広いエリアで稼働させることも検討中とのこと。

 

322web_DSC_0077

 

同社シンガポール拠点のセールスエンジニアであるリー氏はさらにこう話す。「現在チャンギ空港では当社だけでなく、スイスやカナダなど他国のメーカーも清掃ロボットを納入しており、各社が自社製品を改良しつつ、今後営業を開始するターミナル4や5にも採用されるよう努力しているのが現状です。また広大な施設を有し、多くの旅行客が行き交いイベントも多いチャンギ空港は、清掃ロボットを稼働させるうえで非常にハードな環境と言えます。ここで納入実績を伸ばすことができれば、シンガポール島内だけでなく、世界各国の空港などにも強くアピールできると考えています」。

 

空港運営のオートメーションに向けた取り組みは他国でも活発化の動きが見られ、羽田空港では2016年12月から今年2月まで、清掃・案内用のロボットに関する実証実験を実施、2020年の東京五輪開催に向けて順次導入を進める方針だ。韓国の仁川国際空港でも今年に入り、LG電子製のロボットのテスト運用が始まっている。チャンギで実績を積むことは、他国のプロジェクトでの競争優位性を確保するための試金石になると言えるのかもしれない。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPチャンギ国際空港の開発最前線