シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP市場拡大が期待されるシンガポールの緑茶市場

シンガポール星層解明

2017年5月29日

市場拡大が期待されるシンガポールの緑茶市場

緑茶の新たな消費シーンの創造が必要
TWG Teaのブランド構築は一考に値

シンガポールで普及している数多くの緑茶商品は、日本産以外の原材料が使用されているのは既述の通りである。日本から緑茶の輸出を一層拡大していくためには、ターゲットとする現地消費者の嗜好や消費スタイルのみならず、流通経路における特色を理解したうえで事業展開を図っていくことが重要になる。ここでは今後の展開に向けたヒントとなり得るアイデアを、具体的な事例も交えて3点ほど紹介したい。

 

1点目は和食レストランにおける緑茶の無料提供である。日本では標準と言えるこのサービスも、シンガポールでは有料としているレストランが多数であり、現地の消費者に緑茶をアピールする機会が活かされていない。店内で緑茶を無料提供するコストは、工夫次第で吸収できるはずである。伊藤園はシンガポールの吉野家と提携して昨年から商品の提供を開始しているが、店頭のメニューには湯呑に入った緑茶がセットで牛丼の横に並んでおり、以前は炭酸飲料などを選択していた吉野家の来店客に対して、新たな緑茶の消費体験を提供している。

 

2点目は「日本化」を推進するコンビニの積極活用である。島内に約430店舗を構えるシンガポールのセブン-イレブンは、日本のコンビニも参考にして商品政策を改革しており、今年4月からは2ヵ月間の予定で、販路拡大を目指す日本の食品事業者に対してテスト販売の機会を提供している。静岡県の大井川茶園は、ドリップ式のリーフ茶商品で参加しており、継続的な販売に向けて現地消費者の反応を伺っている。

 

3点目はインバウンド客を狙ったブランド構築活動である。日本への旅行者の間で爆発的に人気が高まった結果、シンガポールでも常時購入が可能となった商品には、ラーメン、デザート、お菓子などのカテゴリーで様々な例が存在しており、緑茶に関してもやり方次第では効果的と考えている。伊藤園は、2014年に羽田空港国際線の商業施設に和カフェ「茶寮 伊藤園」をオープンして以降、昨年には全日空(ANA)の国際線ファーストクラスで抹茶を初めて提供し、直近でも国際線機内誌に自社の広告を掲載している。インバウンド客に日本の伝統的な茶文化を体験してもらい、帰国後も自社商品のファンになってもらうことを願って旅行者の動線上に商品との接点を増やす仕掛けづくりは示唆に富んでいる。また、2008年の創業からわずか9年で、今ではシンガポールを訪れる日本人にも定番のお土産として強烈な人気を誇るお茶ブランド「TWG Tea」の隆盛も、ブランド構築の重要性に関して一考に値する。

 

健康意識の向上は市場拡大に追い風
新規メニューと消費習慣の提案がカギ

シンガポール政府は、肥満人口が増加していることなどを背景に、健康をより意識した食生活を推奨しており、緑茶の主成分であるカテキンにコレステロールの低下やがん予防などの効用がある点は、高まる健康意識に応えて緑茶の消費を拡大していくうえで追い風になる。実際に、シンガポールの小売店における容器入りの緑茶飲料に占める無糖商品の市場シェアは拡大しており、日本の食品事業者が「トクホ飲料」などで培った経験を活かせる機会は増えるとみている。

 

これまで考察してきた通り、シンガポールにおける緑茶の消費、また日本からの輸出には今後も伸びしろがあると考えているが、具体的な商機につなげていくためには、単に日本で製造した商品を持ち込むだけではなく、現地のメーカーや飲食店に対して緑茶を使用した新規メニューや緑茶の具体的な消費習慣を提案していくことが重要である点を強調して本稿の結びとしたい。

 

322web_20170422_150814

316web_book_10_mr-yamazaki(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.322(2017年6月1日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP市場拡大が期待されるシンガポールの緑茶市場