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法律相談

2017年4月5日

Q.シンガポールでは最近、従業員の整理解雇について国への報告義務が導入されたと聞きました。具体的にはどのような義務なのでしょうか。

従業員の整理解雇に関する新たな報告義務について

A:2017年1月1日から、10人以上の従業員を雇用する会社などの使用者は、6ヵ月間に5人以上を整理解雇する場合、シンガポール人材開発省(MOM)への報告が必要になりました。

 

シンガポール人材開発省(MOM)、全国労働組合会議(NUTC)および全国経営者連盟(SNEF)の3者で構成される政労使連盟は、2016年11月25日に「整理解雇の報告義務に関する政労使による勧告」(Tripartite Advisory on Mandatory Retrenchment Notifications)を公表しました。これにより、2017年1月1日から、上記の条件に当てはまる整理解雇についてMOMへの報告(notification)が義務付けられることになりました。それまでは、整理解雇に関する報告が奨励されていたに過ぎませんが、今回はこれが義務となっています。

 

Q:ここでいう「整理解雇」とは、日本の整理解雇と同じものと考えてよいでしょうか。

A:厳密には、日本でいうところの「整理解雇」と同じではありません。公表された勧告では「Retrenchment」という用語が用いられており、そこでは、人員余剰または使用者の業務やビジネスなどの再編を理由とした解雇であると定義付けられています。なお、報告義務が課される整理解雇の対象となる従業員は、正社員および期間6ヵ月以上の契約社員とされており、フルタイムかパートタイムといった勤務時間や国籍を問いません。

 

Q:報告義務が課される整理解雇について、MOMに報告すべき時期や内容について教えてください。

A:使用者は、6ヵ月間で5人目に整理解雇される従業員に対して解雇通知を行った日から5営業日以内に、その5人分についてMOMに対して報告する必要があります。一度の機会に5人以上の従業員に対して解雇通知を行うのであれば、その通知から5営業日以内に全員について報告する必要があると考えられます。

 

報告には、MOMのウェブサイト(http://www.mom.gov.sg/employment-practices/retrenchment/mandatory-retrenchment-notifications)からダウンロードできるフォームを利用します。当該フォームには、対象となる従業員のNRIC(国民登録番号)/FIN(外国人登録番号)、在留資格の種類、整理解雇日および職位を記入する必要があります。そして、このフォームをMOMのウェブサイト上で提出することになりますが、その際、UEN(企業コード)、担当者の連絡先および整理解雇前の従業員の在留資格毎の人数を合わせて提出します。

 

Q:報告義務に違反した場合、罰則はありますか。

A:整理解雇の報告が必要であるにもかかわらず期限までに報告しなかった場合、最大5,000Sドルの罰金が課されることがあります。

 

Q:報告義務の導入により、整理解雇はしにくくなるのでしょうか。

A:整理解雇についてMOMへの報告を義務付けることになった目的は、整理解雇の対象者となった従業員に対して、MOMらが再就職の支援や職業教育を行いやすくするという点にあります。あくまでも整理解雇する旨の報告を義務付けるものに過ぎず、整理解雇について要件を加重したものではないと考えられます。もっとも、シンガポール政府としては、MOMへの報告義務を課し、MOMが整理解雇の状況を把握できるようにすることで、整理解雇を偽装したような不当な従業員の解雇を防ぎたいという狙いもあるのではないかと推測されます。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 清水 洋介

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.320(2017年4月1日発行)」に掲載されたものです。

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