シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP1月からEPの発行厳格化、どうなる?シンガポールの日系企業

座談会

2017年3月30日

1月からEPの発行厳格化、どうなる?シンガポールの日系企業

カテゴリー:人事

AsiaX:MOMのツールを使い、新基準を適用した場合のEP申請資格の有無を診断することが昨年11月から可能になりました。シンガポールで働いている日本人からは、このツールで調べたところ自分の最低給与額が大きく上がり、ビザが更新できなくなると過剰反応する向きもあったように思います。果たして今後、日本人のシンガポールでの就業機会はどうなっていくのでしょうか。また求職者の動きについてはどうご覧になっていますか。

 

北川: 5年、10年といった長期的な視点に立てば、日本人がシンガポールで働く機会が減っていくことは避けられません。なぜならシンガポール人の雇用を確保することが、新基準の一番の狙いですから。実際に企業側では、シンガポールにあるコールセンターを、マレーシアやタイといったビザの取得しやすい国へ移す動きも出ています。

 

永見: ここ数年の求職者の動きとしては、国ベースで就労を希望する人は減り、求人案件ベースで就労を希望される方が増えてきました。昔は「日本でいい仕事がないから海外で」と考える方もいらっしゃいましたが、シンガポールでの就労については年々日本より厳しさを増しており、今はそういった考えの方は減ってきています。
また仕事を選ぶ上では、キャリアの軸がより大事になっています。実際、「この仕事なら他の国でもできる」という理由でいろいろな国での就労を検討される方が増えており、結果的に日本に戻って働くという人もいらっしゃいます。今の日本は景気も良く、自分がやりたい仕事にも就きやすいのです。

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新基準の適用でSパスをめぐるトラブルも

AsiaX:新基準の適用により、企業側ではさまざまな問題が起きています。EPを申請したものの取得できず、内定を取り消しにするケースもあるようです。このほか、新基準の適用に伴って起きている問題点について、どのようなものがありますか。

 

北川:Sパスをめぐるトラブルが見受けられます。Sパスの枠はあるものの、これまでEPの取得が比較的簡単だったので使い慣れていないという企業も少なくありません。シンガポール人5人を採用すればSパス1枠が与えられると思っていたのが、実際は6人につき1枠だったというケースもあります。採用を決めたもののSパスの枠がなく、内定を取り消さざるを得ないといった事例も出ており、当社も企業側にはSパスの枠数についてきちんと把握してほしいとお伝えしています。

 

永見:その企業に勤めていたシンガポール人が退職したことで、Sパスの枠が減ってしまうケースもあります。新しくシンガポール人を雇ったとしても、MOMがデータを更新するまで数ヵ月のタイムラグが発生するため、すぐには枠を増やせず、採用を先延ばしにせざるを得ないこともあります。

 

AsiaX:今後の人材紹介会社のあり方についてお聞きしたいと思います。新基準の適用に伴う人件費の増加などを背景に、シンガポールでの人材採用が困難さを増すと予想される中、試用期間を延ばしたり、紹介料を下げたりといったことは考えていらっしゃるのでしょうか。

 

小林:「日本人なら誰にでもできる」といった仕事は、これからシンガポールでは減っていきます。「候補者の専門性や強みは何なのか?」「候補者の強みをどう活かせるのか?」「シンガポールのマーケットで何が起こっているのか?」「企業のニーズに対して人材がいるのかいないか、どのくらい採用が難しいか?」「難しい場合はどんなソリューションが考えられるか?」といった点について、コンサルタントがしっかりと把握して企業と候補者に伝えることが、これまで以上に大切になってきます。
新基準の適用により、今後の日本人採用のニーズは専門職やマネジメントに偏る事が考えられるので、「この業界のハイパフォーマーはどの会社の誰」「どこでどういう経験を積んだ人材は価値が高い」など、マーケット内の企業や人材に精通した、ヘッドハンティングができるコンサルタントの需要が高まるでしょう。価値の高い専門職やマネジメント人材を紹介できることが、人材紹介会社のあるべき姿となっていくでしょう。

 

北川:案件1件ごとの重要性は今後ますます高まっていくでしょうね。エージェント側には、企業と求職者のマッチングの精度がこれまで以上に求められるようになります。

 

下垣内:人が仕事を通じて生み出す価値は、どの業界・企業で働くかによって左右されることがあります。良い人材が成長分野に転職するよう促したり、適材適所を実現したり、人材の再配分によって、社会を更に活性化することが紹介会社のミッションだとするならば、新基準の適用はそれを突き詰めていくいい機会なのではないでしょうか。

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