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シンガポール星層解明

2017年3月6日

成熟社会の実現に向けたシンガポールの新経済成長戦略

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未来経済委員会が報告書国を取り巻く環境の悪化に対処(2017年2月12日)
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2月17日にシンガポール通産省が発表した2016年のGDP(国内総生産)の成長率は、従来予測の1.8%から2.0%に上方修正された。製造業の急回復が寄与した結果だとされているが、経済の約3分の2をサービス部門が占める中、製造業が未だにシンガポール経済の成長へ貢献しているとはいま一つイメージしにくいと感じた方もいるのではないか。

 

本稿では、シンガポールの「未来経済委員会(CFE: Committee on the Future Economy)」が2月9日に発表した新成長戦略を俯瞰し、向こう10年間の経済成長の柱と期待される内容を、課題や過去の成長戦略も交えながら考察していきたい。

 

成長戦略は各時代の経済状況を反映
官民有識者が7年振りの提言

シンガポール政府は不定期の頻度で経済の成長戦略を立案する委員会を設置しており、2015年10月にリー・シェンロン首相によって新設が発表されたCFEは、2010年の前回委員会に続いて過去30年間で4回目の委員会となる。新成長戦略の理解を深める一助として、過去の委員会が策定した戦略の概要と当時の経済状況を振り返ってみたい。

 

シンガポール初の経済戦略策定機関となった「経済委員会(EC: Economic Committee)」は、1980年代に政府が労働集約型産業からの撤退とハイテク産業の誘致を加速するために高賃金政策を採用した結果、世界経済の減速と共に人件費が膨らみ、国内の景気が下降してしまったことを受けて1986年に設置された。当時のリー・シェンロン貿易産業大臣が率いたECは、シンガポールの競争力を回復するために必要なことについて見直し、民間セクターやオフショアビジネスの促進に加えて、企業の収益性に応じて賃金引上げを行う柔軟な賃金制度の導入などを提言している。

 

2回目の「経済再生委員会(ERC: Economic Review Committee)」は、2001年のITバブル崩壊と2003年のSARS(新型肺炎)でダメージを受けた経済を抜本的に見直すために2003年に設置された。ERCの提言に基づき、政府は外部経済との関係強化、起業家精神の育成、製造業とサービス業の「双発エンジン」の振興などを掲げている。ITバブルの崩壊を受けてか、当時は製造業を成長エンジンを担う一翼に位置付けている点が興味深い。

 

3回目の「経済戦略委員会(ESC: Economic StrategiesCommittee)」は、2008年のリーマンショックに端を発した世界金融危機を背景に2010年に設置された。ESCの提言内容には「スキル」と「イノベーション」を通じた成長や「グローバル・ アジア・ハブ」機能の活用など、それまでの成長戦略には無いコンセプトが新たに登場している。経済の高付加価値化に必要なこれらのコンセプトは、今日のシンガポール経済が発展を遂げていくうえでの基盤となっており、4回目のCFEが提言する新たな成長戦略にまで引き継がれている。

 

さてCFEを構成する5人の閣僚と25人の民間有識者は、過去1年間は数ヵ月に1度の頻度で会合を開き、人口わずか550万人で天然資源にも恵まれないといった都市国家としての制約に加えて、米国の保護貿易主義や中国経済の減速など、貿易への高い依存から生じるリスクを抱えるシンガポールが将来的に採るべき戦略を109ページに及ぶ報告書にまとめて提言している。

 

労働の質的転換が継続的テーマ
今後10年間は毎年2~3%の成長目標

CFEは戦略の前提となるシンガポールが目指すべき具体的なイメージとして、国民は熟練したスキルを身につけ生涯を通して学び続け、ビジネスは革新的で素早く変化に対応し、街は活気にあふれて世界と連携したうえで常に変化を遂げ、そして政府は包括的で国民の声に素早く対応すべき点を挙げている。そしてその達成に向けて、以下に記す7つの戦略を提言している。

 

①国際的な経済関係の深化と多様化
②熟練したスキルの習得と活用
③イノベーションと事業拡大に向けた企業能力の強化
④強力なデジタルケーパビリティの構築
⑤活気と機会に満ち、外部と繋がった都市国家の創造
⑥産業変革マップの作成および実行
⑦イノベーションと成長を実現するパートナーシップの活用

 

さて過去3回にわたり策定された成長戦略は、いずれも当時の国内外の景況や潮流が反映された内容となっているが、今回の報告書では時世柄「デジタル」が新たなキーワードとして成長戦略に盛り込まれている。具体的には中小企業に対するデジタル技術の活用支援、データ分析とサイバーセキュリティにおけるケーパビリティの構築、データ資産の活用の3つのアクションプランが、上記④において推奨されている。また先述した通り、2010年のESCの提言に登場した「スキル」や「イノベーション」といった知識集約型の経済発展に欠かせない要素や、シンガポールを「グローバル・アジア・ハブ」たらしめる地理的優位性をテコに近隣諸国との連携を深めていく方針は、今回の提言内容にまで連綿と反映されている。

 

CFEはこれらの戦略を実行することで、シンガポールがこれまで同様に外部経済に対して開かれ、また全国民に対して持続可能な賃金の上昇や有意義なキャリアなど、多くの機会を提供できる経済を構築することが可能になるとしている。またその結果として、今後10年間は他の先進国を上回るであろう年平均2%から3%の経済成長を遂げると見込んでいる。

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