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星・見聞録

2017年2月20日

シンガポールの漢方薬(中薬)市場

華人が人口のおよそ7割を占めるシンガポールでは、街中で伝統的な漢方薬(中薬)の薬局を見かけることも多い。またホーカーセンターにあるハーバルドリンクスタンドでは、中薬としても用いられるハーブを使ったジュースを楽しむことができ、スーパーマーケットでは薬膳スープなどのコーナーが設けられているなど、その存在は日本よりも身近といえるだろう。今回はシンガポールにおける中薬市場の動向を俯瞰するとともに、その利点や利用上の注意点、さらに中薬を活用したビジネスなどについても取り上げてみたい。

 

シンガポールにおける中薬の歴史・市場規模

中薬とは天然の動植物や鉱物を混ぜ合わせ、薬として使用するもので、中国の伝統医学である中医学の知識がベースになっている。中国で使われていたものが日本に渡り、17世紀に独自に発展したものが漢方薬と呼ばれる。シンガポールでは、19世紀に中華系の移民が移り住むとともに中薬も普及していった。

 

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市場調査会社のユーロモニター・インターナショナルによると、2016年のシンガポールにおける中薬製品の市場規模は、前年より3%拡大し約3億Sドルに達している。シンガポールで入手できる中薬は高品質で、副作用が比較的少ないことが利点という。また中国医薬保健品進出口商会の資料によると、世界最大の生産国である中国の中薬の輸出先を国別でみたとき、シンガポールは6,900万米ドル。人口がわずか500万人超であることを考えると、他国に比べ中薬がより身近であることが伺える。
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アジア全体で見ても中薬の需要は高まっているようだ。中薬の販売大手である余仁生は2000年にシンガポール取引所への上場を果たすなど業績が拡大、さらに近年では香港やマレーシア、中国など海外への展開を進めている。

 

2002年から中医師の国家登録が必要に

市場が拡大するにつれ、シンガポール政府はその安全性を高めるため、中薬を扱う中医師に関する規制を強化するようになった。2002年以降、中医師は国家機関への登録が必要になり、新たに学校を卒業した人は資格試験をパスすることが求められている。また医療行為についての規定も設けられ、違反した場合は免許が取り消されるほか罰金が課されるなど、罰則も強化されている。

 

南洋理工大学のホン・ハイ教授は次のように話す。「規制の強化もあり、医療行為に対する中医師の責任感やプロとしての意識がより高まるとともに中薬による治療の安全性も向上し、近年医療事故は減少しています。さらなる安全性の向上に向け、臨床試験などをしっかり行っていくことは今後も重要になります」。

 

市場の拡大に伴い中薬が手に入りやすくなっている一方、2012年にはインドネシア産の中薬の錠剤を服用した70歳代の女性が死亡するなどの事故が起きている。個人としても、専門の薬局や医師に相談するなどして、使用上の注意点を正しく理解することは、健康を守るうえでも必要になりそうだ。

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