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星・見聞録

2012年5月21日

シンガポールの農業

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都市国家シンガポール。一見、この国は農業とは無関係のように思える。しかし、食料確保に直結する農業は国にとって重要な問題であり、さまざまな取り組みが行われている。あまり知られていないシンガポールの農業事情を調査した。

 

 

この国はその昔、農業国だった

今のシンガポールから想像するのは難しいが、1960年代、国民の多くは農業に従事していた。国土の約5%にあたる1万4000ヘクタールを農地が占め、約2万軒の農家があった。

1965年にはシンガポールで最初の農業展示会が開催されている。これは、都市部に住む人たちに農業や漁業関係者の仕事を紹介するために行われたものだった。1968年からはより正確なデータを基に農業政策を進めるために、農業のライセンス制度(認定農場)が導入された。

1970年代に入ると、それまで最低限の生活の糧を得ることが目的だった農業に、限られた農地とコストの中でより多くの収穫を得るビジネスとしての手法が取り入れられる。その一例として、プンゴールには大規模な養豚場が開発された。

当時、自給率は鳥肉が80%、卵100%、豚肉104%に達した。

 

 

国も農業も変貌を遂げて今へ

1980年代になると、農地は急激に減少する。これは、住宅や企業用地として、多くの農家が農地を手放すことになったことが大きな理由だ。

 

そんな中、自給率を維持すべく、農業のオートメーション化、機械化が進められ、従来の農場はアグロテクノロジーパーク(Agrotechnology Parks)へと進化。現在、アグロテクノロジーパークはリムチューカン(Lim Chu Kang)、ムライ(Murai)、サンゲイテンガー(Sungei Tengah)、 ニースーン(Nee Soon)、マンダイ(Mandai)、ロヤン(Loyang)の6ヵ所にある。

農産物の輸入が量、種類ともにそれまでになく増加するのも1980年代であり、食品の安全性を確保する方策も整備された。

 

シンガポールの農業政策は1960年代以降、第一産品局(Primary Production Department /PPD)によって行われていた。PPDは2000年4月に農食品獣医庁(Agri-Food and Veterinary Authority/AVA)へと改組され、現在にいたっている。

 

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現在のシンガポールの農業と自給率

2010年の時点でシンガポールの農地面積は約740ヘクタール、陸上農場の数は250。農地面積、農家の数ともに2001年からは小幅な増減を繰り返しつつほぼ横ばいだが、どちらも減少傾向にあるといえる。

 

国際連合食糧農業機関 (FAO)の統計によると、農林水産業の人口は約4,000人、国内総生産(GDP)に占める農林水産業は0.04%(2009年/農林水産省「 シンガポールの農林水産業概況」)。

 

シンガポールの自給率は2009年の卵22%、野菜4%、魚介類5%から、2011年には卵約23%、葉物野菜7%、魚介類7%とややアップした。ちなみに日本の自給率は卵96%、野菜83%、魚介類53%(2009年/農林水産省「食料需給表」)。

 

農食品獣医庁では、シンガポール国内の農業生産を高め、さらなる自給率アップをめざしている。そして自給率の目標として卵30%、葉物野菜10%、魚介類15%を掲げ、今後20年で農業生産効率を高めるべく、農地を確保。さらに農業技術開発などを通じ自国での食料生産力の向上に努める一方、 食料の安定供給のために海外から輸入を行っている。

 

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豊かな食文化を支える多国籍食品

シンガポールの豊かな食文化は、誰もが認めるところ。2009年の1年間にシンガポールで消費された米はおよそ24万6,000トン、豚肉9万5,000トン、鶏肉15万5,000トン、野菜46万9,000トン、魚介類11万4,000トン、卵が15億個。この数字は、1人あたり米約49キログラム、豚肉19キログラム、鶏肉31キログラム、魚介類23キログラム、野菜94キログラム、卵300個を消費した計算になる。

 

このように食欲旺盛なシンガポール人の胃袋を満たすには、限られた国土での農業生産では追いかず、90%以上の食料を海外から輸入している。

 

だが、食料を輸入に依存していては、価格高騰、世界的な気候の変化などによって、シンガポールは深刻な影響を受ける恐れがある。そこで、農食品獣医庁では万一の事態に備えて調達国の多様化を図っている。2009〜2010年の時点で、調達国は近隣のアセアン諸国やアジア太平洋地域の国だけでなく、ヨーロッパ、北米、南米におよぶ。

 

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いざという時の食物代替品

農食品獣医庁では、魚介類、卵、葉物野菜を主要食物と指定している。そしてもし食物が供給不足となった場合、その影響を最小限に抑えるべく調達先の多様化などを進めているのだが、ほかにもユニークな対策が立てられている。そのひとつが、冷凍肉、粉末卵、液状卵といった代替品の認知度アップ計画だ。

 

生肉や冷蔵肉、殻付きの新鮮な卵が不足する場合でも消費者が代替品を抵抗なく使えるように、2009年から2010年に冷凍肉を使った料理教室が開催された。また、スーパーマーケットで粉末卵と液状卵の試供品を配布も行われた。

 

このようにシンガポールでは、自国内の農場の生産性向上、輸入元の多様化、いざという時のための主要食品代替品など、食料を確保し、手ごろな値段で供給するためにいろいろな取り組みが行われている。

 

地元の人々だけでなく、私たち在住外国人も安全に「食」を楽しめる国シンガポール。農業に関わり、私たちの食生活を支えてくれている人たちに思いを馳せるのも、この国について知るうえでいいことかもしれない。

 

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インタビュー|シンガポールの野菜農場訪問

スクリーンショット 2015-06-16 15.52.08シンガポールの農場はいったいどのようなところなのか?アグロテクノロジーパークの一つサンゲイテンガーにあり、シンガポール最大規模の葉物野菜の生産農場であるコクファー・テクノロジー・ファーム(Kok Fah Technology Farm)を訪問。プロジェクト・エグゼクティブのエヴァンヌ・リオさんに話を聞いた。

 

この農場ができたのはいつですか?

コクファー・テクノロジー・ファームが会社となったのは1999年ですが、歴史をさかのぼると1945年に創業者ウォン・フォンがシンガポール西部で野菜をつくりはじめたのが始まりです。

 

今の農場の大きさは?

5区画あり、あわせて7ヘクタールです。シンガポールのほかに、マレーシアにも契約農場があります。

 

現在のスタッフ数は?

75人です。多いと思われるかもしれませんが、農業は人手が必要な産業なんです。

 

生産している野菜の種類と出荷までの所要日数は?

Asian Leafy Vegetableと呼ばれるアジアの葉物野菜を主に生産しています。ホウレン草、エンダイブ、中国レタス、パクチョイ、空心菜、カラシナなど12〜15種類。中でも最も生産量が多いのはホウレン草です。

 

出荷までの数は野菜によって異なりますが平均30〜40日くらい。

 

気候などの関係で、シンガポールで育てることができる野菜も限られます。例えば、レストランで出てくるようなサラダに使う西洋レタスなどは涼しい気候での栽培に適しているので、シンガポールで作ることは難しいんです。

 

この農場の生産量は?

マレーシアの契約農場と合わせた生産量は年間10トンです。

 

土耕栽培と水耕栽培、どちらで生産していますか?

うちの農場で作る野菜はすべて土耕栽培、グリーンハウスで生産しています。以前、お客様から、料理に使う野菜は土耕栽培で作ったものの方がおいしい、というフィードバックをいただいたことがあります。

 

海外へ輸出もしていますか?

海外への輸出はしていません。国内向けのみです。シンガポールで消費される葉物野菜のうち、現在国内の農場すべて合わせた生産量は、約7%となっています。

 

シンガポールの農業で苦労することは何でしょう?

やはり農場のための土地を確保するのが困難なことですね。もっと農場を広げようと思っても難しいです。

 

シンガポールの農業にとってどのような点が有利でしょうか?

気候が安定しているので、1年中栽培ができること。そして、農場と消費者の方の距離が近いことでしょうか。

私たちの農場では野菜の種まきから収穫、包装、出荷まで全工程を行っていますが、収穫してから2日で消費者の皆さんに届けることができます。

とれたての野菜を新鮮なうちに市場に出すことができるのは、国が小さく、農場と都市が近いことを活かした利点だと思います。

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週末は農場へ!

スクリーンショット 2015-06-16 15.52.50コクファー・テクノロジー・ファームには、「ウィークエンド・ファーム(Weekend Farm)」も併設。ウィークエンド・ファームは週末と祝日には農場から収穫したての新鮮な野菜の販売が行われる。団体向けにガイド付きファームツアーもある。

 

[ウィークエンド・ファーム]
開催日時:土・日曜日、祝日 9:00~18:00(ガイド付きファームツアーは火~金曜日10:00~16:00、所要時間30~45分)
入場料:無料(ガイド付きファームツアーは参加費5S$/大人と子ども同料金)

※ガイド付きファームツアーはウェブサイトから事前予約申し込みが必要。最小催行人員20名。

Eメール:enquiry@weekendfarm.com.sg
ウェブサイト:www.weekendfarm.com.sg

 

 

 取材協力

スクリーンショット 2015-06-16 15.52.55Kok Fah Technology FarmPte Ltd / Weekend Farm
Mk Xi Sg Tengah Agrotech Park Plot ST 18
Sungei Tengah Road Singapore 698974
Tel:6765-6629
Eメール:enquiry@kokfahfarm.com.sg

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.212(2012年05月21日発行)」に掲載されたものです。
文= AsiaX編集部

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