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ビジネスインタビュー

2010年7月19日

ホワイトカラーの真の生産性向上のために

株式会社オーリッド 代表取締役 三浦雅弘さん

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日進月歩でビジネスライフに登場する最新のIT機器とソフトウェア。利用者の生産性を向上させるために、便利で効率よく、マンパワーを削減するために開発されたものばかりだ。しかし、実際に人の手を介する必要が全くないレベルまで依存できるようになるなど、真の効率化へ導いているケースはどれほどあるだろうか。そんな矛盾が生むマンパワーとコストの解消に着目したのが、株式会社オーリッド代表取締役である三浦雅弘氏だ。

「オーリッドソリューション」の誕生

大手企業のITコンサルタントだった三浦氏は、郵政事業民営化にあたり、事業再編成のためにホワイトカラーの業務効率とコストを徹底的に調べ上げた経験がある。彼らの時間の半分は事務管理のためのバックオフィス業務に充てられ、さらにその半分は書類にある文字をインプットするなど紙を扱う業務だった。

 

通常、改善策として選択されるのが、OCR(光学文字認識装置)のITシステムを導入し、文字を自動認識してその業務量を軽減するというもの。が、実際それだけでは文字のデジタルデータ化は完成しない。機械やシステムの読み取りの精度を確認するデータチェックという人間による認知や修正作業がつきまとう。結局「単純作業に張り付きになることで、自分の付加価値を最大限発揮できないまま」となってしまう人員が発生するのである。

 

徹底した効率化を図るために、そこにこそ手を打つ必要があると感じた三浦氏は、同時にビジネスチャンスを見い出した。そして、OCRの精度を上げるなどのシステム開発に膨大な資金と時間を費やす大企業を追随するのではなく、その精度をバックアップするための人間を介した認知のプロセスをOCRシステムに付加した独自のサービス「オーリッドソリューション」を確立させたのだ。

「高精度・低価格・スピーディー」なオーリッドソリューション

手書きの会議の議事録1枚をデジタル化したいとする。まずスキャンでコンピューターに取り込まれると、OCRを通して文字データになるが、読み取れない部分は画像として解析され、複数の文字候補とともにオペレーターのもとに送られる。1単語程度に細分割されたものが一度に200人ものオペレ−ターのもとに届き、オペレーターは、OCRが選んだ類似した候補を見て、文字としてではなく、形状から視覚的な判断をして「○」か「×」を選択する。文字データを細かく分けて情報として無価値にすることで、セキュリティも確保される。さらに次段階のオペレーターにわたり、日本語であれば最終的に日本人のオペレーターが確認する。

少なくとも3段階、最大7段階の確認作業が入ることで、抜群の精度のもと、書類の種類や分量にもよるが、最短90秒でデジタル化された議事録が発注者のもとに返される。記載事項がデジタル化されたことにより、いつでもコンピュータ上で検索したり、コピーやペーストが可能になるというわけだ。

 

OCRによるデータ読み取りと人間を介した認知のプロセスをそのサービスの双璧とすることは、実は驚くほどの労働集約型組織が必要となる。「労働者を集約するビジネスは、資産が重く効率の悪いビジネスという判断になり、他社は避けたがる形態です。最新技術がないから人の手をかけて作業をする工場のイメージなんです。現代において、最先端の技術はどこにでもあります。我々はその両方を兼ね備えることで他にないサービスが提供できているのです」と三浦氏は語る。

 

オーリッドは、3,000人ものオペレーターが勤務する最新鋭のシステムを備えた床面積25,000平方メートルもあるオペレーションセンターを中国遼寧省瀋陽市に持つ。また、日本人オペレーターは、パソコンや携帯電話でつながったユビキタスオペレーターを組織することで、全体としてのコストを押さえることを可能にした。オペレーターには特別な語学力等も必要としないので、オペレーションセンターは今後どの国でも開設できるという。そのビジネスモデルは、新しい雇用機会の創出にも一役買うことができるのだ。

 

ベンチャー企業の心意気と挑戦

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最新鋭のシステムを備えた中国・瀋陽のオペレーションセンター

通信インフラの充実、生産管理システム、ソフトウェアの開発など、三浦氏は、2001年に起業して以来、投資とシステム開発を繰り返し、ようやくビジネスとしての黒字転換を迎えた。「莫大な先行投資が必要で、しかも黒字転換がいつになるか見込めないビジネス。ベンチャーだからこそできたこと。早く実現すれば喜んでくれる人がたくさんいる、というのがモチベーションでした」と語る。

 

これまで、日本国内では、生命保険会社や信販会社の顧客情報や支払いのデジタルデータ化など、B to Bのビジネスで成功をおさめてきた。シンガポールでは、オーリッド社としても初の試みとなるが、一般消費者向けにデータ管理サービス「O-RID KYBER」の利用を促進する。その拠点としてのカフェを先日オープン、専任スタッフのガイドのもと、利用者にサービスを実際に体験してもらえる。日常的にはインターネットでデータのやりとりができるので、ロケーションフリーでも利用可能だ。

 

「今後の中国を見据えた海外展開を鑑みて、まずは自由経済圏で華人が多く、ホワイトカラーが大半を占めるシンガポールで、カフェというリアル型の地上戦と、ロケーションフリーのネット型空中戦を展開していきます」という。また、大学などにも導入してもらうことで幅広い浸透を図る。

 

「ラッキーナンバーが13なんです。」と、三浦氏は笑いながら、2013年には、シリコンバレーへ進出し、欧米や世界へのサービス拡大を目指したいとする。「欧米は人を介在させない仕組み作りにこだわりすぎている。マンパワーをいくら省略できても人が補完するシステムは、どんな場面にも必ず必要です。その考え方を持たないことがそもそもの盲点であり、我々に勝算があると考える理由です」と、三浦氏は意欲的に語る。

 

本社を大分県別府市に構える等、ベンチャー企業として独自の発想とそれを具現化する推進力に、世界に通用するリーダーの片鱗が伺える。ITの世界にこれまでになかった風を吹かせる新しいサービスが、今シンガポールから世界へ発信されようとしている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.171(2010年07月19日発行)」に掲載されたものです。
取材=桑島千春

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