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シンガポール星層解明

2016年6月6日

未知なる可能性を秘めたシンガポールのネット小売市場の展望

新・生活インフラとしての「ロッカー」の普及に官民一体で取り組むべし

消費者がリアルからネット店舗での購入にシフトしていく過程では、商品の価格と品揃えが重要であることは言わずもがなであるが、最後にもうひとつの要素である配送サービスレベル、すなわち商品が手元に届くまでのリードタイムと送料、および受取場所の多様性について比較してみたい。

 

日本では、リードタイムに関しては一定のコストが掛かる場合や対象エリアに制約があるものの、注文から最短1時間での配送や配送時間枠の指定、送料は再配達も含めて基本的に無料か少額の購入で無料となる。また商品の受け取りは自宅に加えて最寄りの店舗、コンビニ、駅や郵便局などに設置された専用ロッカーで可能など、世界でもトップクラスのサービスが提供されている。

 

一方のシンガポールでは、先進的なネット店舗を運営するユニクロでさえも、自宅までのリードタイムは最短で同日(11時までの注文で当日18時までに配達)、送料は9Sドル(約720円)となっている。なお、1~3営業日以内に配達される標準的なオプションでも送料無料には60Sドル(約4,800円)の購入が必要であり、満たない場合には6Sドル(約480円)の送料が発生する。また、配達時に不在の場合でも再配達がなされることはなく、ユニクロが配送を委託するシンガポール郵便局(シングポスト)の最寄りの拠点に自ら出向く必要があるなど、現状の配送サービスレベルはわずか東西42キロ、南北23キロの島国からは連想できない不便さである。一点だけ特筆するとすれば、シングポストは島内の約130ヵ所に商品引き渡し用のロッカー「ポップステーション」を設置しており、購入者は指定したロッカーから24時間いつでも商品を受け取ることが可能になっている。

 

筆者はこのロッカーこそが、ネット小売市場の飛躍的な拡大に向けて重要な役割を果たすと考えている。日本では無料での再配達は当然視されており、ネット店舗の利用には欠かせないサービスとなっているが、現状のオペレーションや上昇する人件費を鑑みると、無料・有料を問わずシンガポールで再配達が一朝一夕に普及するとは想定できない。その代替策として、人口の85%が密集した公団住宅に暮らすことや、夫婦共働きのために自宅を不在にしがちという特性はロッカーとの親和性が高いことから、生活動線上の要衝にロッカーの設置を進めた上で、その利便性を消費者に効果的に訴求することさえできれば、ネット店舗の利用が加速度的に進むと考えている。奇しくも本稿を執筆中の4月26日にはターマン・シャンムガラトナム副首相が島内での公共ロッカー設置・強化を発表しており、今後こうした流れが現実に加速すると思われる。

 

実は今回ラザダへの出資を決めたアリババは、東南アジア各国でネット小売向けの物流を提供するシングポストにも出資をしている。まずはシンガポールを起点に、いかに2社間のシナジーを創出して配送サービスを拡充させた上で、人口が6億人を超える巨大な東南アジア市場で事業全体を拡大していくのか、今後の動向に注目である。

 

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24時間体制で商品を受け取れるシングポストのロッカー「ポップステーション」

web_profileプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.303(2016年6月6日発行)」に掲載されたものです

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