シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPシンガポール企業と契約を締結することになりました。日本法に基づい...

法律相談

2016年6月6日

Q.シンガポール企業と契約を締結することになりました。日本法に基づいて契約を締結したいのですが、可能ですか?

シンガポールの契約書と準拠法

A:可能です。契約の成立や解釈の基礎となる法律を準拠法といいます。日本企業同士が日本において契約を締結する場合に争いなく日本法が適用される場合と異なり、国際取引の場面等では、外国企業が契約当事者に加わるため、どの国の法律を準拠法とするのかが重要です。シンガポールでは、原則として契約当事者が合意することにより準拠法を自由に選択することが可能とされているため、契約書において「本契約の準拠法を日本法とする」と定めることにより、日本法に基づいて契約を締結できます。

Q:契約書において準拠法を定めなかった場合、どのように取り扱われますか?

A:契約当事者が契約書に明示的に準拠法を定めなかった場合、裁判所が最終的に当該契約の準拠法を判断することになります。この場合、裁判所は、契約当事者の準拠法に関する意図を契約書の内容等から推認して準拠法を決定します。契約当事者の準拠法に関する意図を推認することができない場合、裁判所は、当該契約が最も密接な関係を有する国の法律を準拠法とします。その際、裁判所は、契約の締結地、義務の履行地、契約の目的物の所在地や契約書の言語等といった様々な要素を考慮します。なお、契約書に紛争解決地として、特定の国名が記載されていても、それだけで、その国の法律が準拠法となるわけではありません。

Q:シンガポール企業との契約の準拠法を日本法とした場合、シンガポール法は一切適用されなくなるのでしょうか?

A:いいえ。日本法を準拠法とした場合であっても、シンガポールのPublic Policy(公序良俗)に反する契約(犯罪の実行を約束する契約等)は無効となります。また、消費者を事業者の不合理な責任免除規定から保護するUnfair Contract Terms Act(不公正契約条項法)など、強行法規といわれる法律は強制的に適用されます。加えて、シンガポールにおいて裁判を行う場合、裁判手続のルールに関してはシンガポールの民事訴訟法に従わなければなりません。このように、準拠法を日本法とした場合であっても、シンガポール法の適用が一切なくなるわけではありません。

Q:シンガポール企業との契約の準拠法を日本法とした場合、シンガポールの裁判所は、当該契約に関する紛争について、日本法に基づいて判断をするのでしょうか?

A:はい。ただし、判断に必要となる日本法の内容を当事者が立証しなければなりません。具体的には、日本法の条文や文献等を証拠として裁判所に提出する他、日本法の専門家を証人として招き、日本法の内容を裁判官に説明してもらうことになります。なお、日本法の内容が立証されない場合、裁判所は、シンガポール法に基づき判断することができます。

Q:シンガポール以外の国における準拠法のルールも、シンガポールと同様と考えてよいでしょうか?

A:いいえ。準拠法のルールは国によって異なります。例えば、中国では中国国内の取引に関して中国法を準拠法としなければならない場合があり、この場合、日本法を準拠法とすることができません。また、ベトナムでは契約の準拠法を外国法とするためには当該契約に、当事者のいずれかが外国人または外国法人、契約の義務の履行地や目的物の所在地が外国の場合といった「外国の要素」が必要です。そのため、契約書において準拠法を選択する場合、事前にその国の準拠法ルールを確認することが不可欠です。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 野原 俊介

このコーナーでは、読者の皆様のお悩み・ご相談を、会計・税制、法律、医学、企業ITシステムのプロフェッショナルが無料にてお答えします。

注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.303(2016年6月6日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPシンガポール企業と契約を締結することになりました。日本法に基づい...