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スペシャルインタビュー

2012年8月23日

シンガポールから世界へ羽ばたく日本人映画監督が誕生

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア グランプリ受賞平柳敦子さん

去る2012年6月、東京で開催されたアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」において、112の国と地域4,400以上もの出品作品の中から、シンガポール在住の女性監督・平柳敦子さんがジャパン部門優秀賞(東京都知事賞)、映画祭グランプリ、オーディエンス・アワードを受賞するという快挙を成し遂げた。グランプリは、映画祭初の日本人女性監督の受賞であり、米国で開催されるアカデミー賞の短編映画部門でのノミネート選考対象ともなることから今後が期待される平柳さんに、シンガポールのニューヨーク大学Tisch Asia(NYU TA)キャンパスにてインタビューを行った。

 

 

AsiaX

グランプリ受賞おめでとうございました。受賞の感想を教えてください。

平柳

前もって何も知らされてませんでしたから、会場で受賞のアナウンスがあった時、ただ信じられませんでした。キャストやスタッフも、学生である私にほぼ無償で協力してくださいましたし、NYUの教授やクラスメート、そして何より家族のサポートがあってできた作品です。どの映画もそうですが、あらゆる人達とのコラボレーションや助けがなければ到底できるものではない。今でも映画製作を助けて下さった全ての人達にひたすら感謝です、本当に運が良かった。

AsiaX

映像制作学部の大学院生として在籍中ですが、映画製作と関わるきっかけは?

平柳

17才の時、俳優を志すためにロサンゼルスへ渡って高校を卒業し、サンフランシスコの大学で演劇を学びました。当時のハリウッド映画で、奇妙な日本語を話す俳優が登場したりするのを見て、自分がハリウッドのやり方やアジアに対する認識を変えるんだ、という思いでした。それから結婚、出産を経て、転機が訪れました。20代の俳優時代は、役が欲しい、とにかく認められたいというエゴが中心でしたが、母親になってから、自分が何を与えられるか、この子に何が残せるかという発想に変わりました。それには、まず自分に正直に生きて、やりたいことに今取り組むことが大事だと思ったんですね。漠然と40才で映画監督になるという夢があったのと、始めるなら子供がまだ小さいうちにと考えて、自分の好きなインディーズの監督や作品が生まれたニューヨーク大学を受験する事にしたんです。その過程で、シンガポールのキャセイ財団から3年間奨学金が頂ける事になり、NYU TAに入学を決めて、2009年7月に家族とともに来星しました。

AsiaX

受賞作品『もう一回』について教えてください。これは学校の課題制作の作品だそうですね。

平柳

はい、2年生時の作品です。15分の短編映画で、15年日本を離れていた男性が、グリーンカード(米国永住権)取得を機に日本へ一時帰国し、変わり果てた姿の母親に遭遇し、最後の1日を共に過ごすというストーリーです。8年前からある自作の脚本で、最初はエイリアンがでてくるSF映画のような設定だったんですが、もっと人間関係を描く作品にした方が良いと教授からアドバイスを頂いて手直ししたものです。実際15年ロスに住んでいた知人の日本人男性や、兄、自分の経験が物語のベースになっています。

AsiaX

この夏から4年生、どんな卒業制作をされるのですか。

平柳

卒業制作として、『Oh Lucy!』という20分のコメディドラマを制作する予定です。ストーリーは、主人公の55才のOLが、姪の頼みで英会話学校へ通います。学校でそのシャイな性格を解き放つために、授業中は金髪のカツラをかぶってルーシーと名乗るというルールを与えられることに。そして、次第に日常生活とルーシーとしての生活がクロスオーバーして思いも寄らない展開になるというものです。
実は、グランプリを受賞してから、運が次の運を呼んで、この作品の主演が桃井かおりさんに決まったんです。学生の作品ですから、無償で参加してくださると。私の構想の中では、この作品は次の長編作品の導入として位置づけているので、桃井さんからは「その長編作品への融資」と言われました。
現在、シンガポールのMDA(メディア開発庁)の助成金も申請中で、この映画の室内のシーンはすべてシンガポール国内で撮ります。機材は学校のものが使えますし、スタッフも学校の友達が手伝ってくれる予定です。

AsiaX

桃井かおりさんが主演とは、すごいですね。

平柳

まずマネージャーさんにご連絡して、『Oh Lucy!』の企画書と『もう一回』のビデオを見て頂いた後、ロサンゼルスに住む桃井さんに直接会いに行き、ラブコールを送りました。私には失うものは何もないのですし、自分が行かないと説得できないと思って。桃井さんは、すごくエネルギーがあって、チャレンジ精神も旺盛、怖いくらい勘が鋭く、頭のいい方です。タイミングも良く、役を気に入ってくださり、特に女性監督を応援したいと言ってくださいました。
監督とはいえ、映画製作にはとにかく人と時間とお金がかかりますし、プロデューサーとして立ち回れることも大事だと実感しています。学校のプロジェクトで、AD(助監督)、監督、脚本、カメラ、音声、プロデュース、編集、照明といったすべての役割をそれぞれ経験しましたから、映画を作る上では、どの役割も一つ一つ大事で感謝すべき存在です。

AsiaX

今後のご予定を教えてください。

平柳

学校を卒業する時に、『もう一回』の短編映画と『Oh Lucy!』の長編映画用の脚本を仕上げるというのが目標でした。それも達成したので、無事卒業した後は、長編映画製作の実現にむけて邁進したいです。
実は、第2子が来年1月に生まれる予定なので、しばし子育てをしながら脚本を修正しつつ、資金集めなどをしたいです。できれば、権威あるサンダンス・インスティテュートの脚本部門のラボ(セミナー)の参加資格を得て、その後、新人映画監督の登竜門で、過去にアカデミー賞受賞作品なども輩出した長編映画制作のラボに参加できたら嬉しいですね。

AsiaX

映画のどんな所が好きですか。

平柳

頭に描いていることが3Dになって現れるのが映画のすごいところで、すべての芸術的な要素が必要な上に、他にはコントロールできない人の感情も加わるという、とてつもないアートだと思います。また、映画は観る人が「体験」するところ。映画館に入った時と出る時では、全く違った感情を経験しますよね。小さい頃、ジャッキー・チェンの映画が大好きで、彼の映画は見終わった後、気持ちがうきうきして、元気が出ました。私の希望としては、映画鑑賞後にそんなポジティブな気持ちになるような映画を作りたいです。
映画製作でいうと、役者、カメラ、衣装といった各分野の才能のある人とコラボレーションしながら作品を作って行くうちに、その才能が加わる事によって思った以上のいいものができる。コラボレーションの成果が映画製作の醍醐味だと思っています。

AsiaX

尊敬する映画監督はいますか?

平柳

アレクサンダー・ペイン監督が選ぶ登場人物などはいつも共感しますし、『チャイナタウン』のロマン・ポランスキー監督、『8 1/2』のフェデリコ・フェリー二監督など尊敬します。日本の監督なら、黒澤明、小津安二郎監督も素晴らしいです。

AsiaX

10年後のビジョンを教えて下さい。

平柳

10年後、どこに住んでいるかはわかりませんが、3年に1本のペースで映画が作れていれば相当嬉しいですし、生涯ずっと映画を作り続けられれば幸せです。

AsiaX

シンガポール、または海外に暮らす日本人へのアドバイスをお願いします。

平柳

アドバイスというより、自分が海外経験で学んだ事を1つ。日本に戻るとよく感じることですが、大抵選択肢が1つしかないこと。こちらから代替案を出しても、それをオプションとして考える回路すら備わってないように思います。一方で、アメリカにはたくさんオプションがある。数学を例にすると、アメリカでは、回答が合っていればどんな遠回りな手法で導いても正解になりますが、日本では、模範解答とちがう手順を踏んだ回答は点数が引かれる。それが後々に影響して、これじゃなきゃいけないという「常識」に従ってオプションが無いまま進んで、最終的に切羽詰まってしまう状況が多いように思います。アメリカ人は、オプションを持ってアプローチする発想なので、臨機応変で問題解決が早い。よりクリエイティブで上手く立ち回っています。色々な人間が住む海外に暮らす上で、よりその発想が役に立つような気がします。
私自身、根は心配性なので、「案ずるより産むが易し」と自分に言い聞かせ、とにかくやってみるということを心掛けています。シンガポールでも「郷に入れば郷に従え」で、ここにあるオプションを生かして、フレキシブルに日々過ごしていければいいなと思います。

インタビュー後記

これまでのことを、「いつのまにか道が目の前に開いて行って、そこを歩いている感じ」と語るが、道を切り開くための意志の強さ、才能を持ち合わせ、そして強運も平柳さんに味方してくれているようだ。海外の著名大学を誘致し、世界に通用する人材を育てるというシンガポールの教育施策が具現化した一つの好例ともいえるが、それにしても余りある大きな可能性を持つ平柳さん。今後の活躍に是非注目したい。

平柳敦子

長野県生まれ。千葉県育ち。サンフランシスコ州立大学にて演劇を学ぶ。現在、ニューヨーク大学Tisch School of the Arts Asia大学院にて映画制作を専攻、在学中。同大学院1年目より様々な映画祭に出品、数々の賞を受賞し注目を集めている。2012年9月にシンガポール/東京で撮影予定の卒業作品『Oh Lucy!』は、ニューヨーク大学の大学院生短編脚本部門で優勝。現在、4才の娘とアメリカ人ビジネスマンの夫とともにシンガポール在住、極真空手黒帯初段保持者。

Short Shorts Film Festival & Asia 概要

URL http://www.shortshorts.org
申込み *2013年開催の国際短編映画祭 SSFF & ASIAへ作品募集開始!詳しくは上記URLよりご確認ください。

■Short Shorts Film Festival & Asia in Malaysia
期間:2012年9月8日(土)~10日(月)
会場: Finas Sound Stage Studio/Pawagam Min iP. Ramlee Studio
主催:FINAS(マレーシア国立映画振興社)

【ショートショート フィルムフェスティバル & アジア】
米国アカデミー賞公認、日本発・アジア最大級の国際短編映画祭。代表は俳優の別所哲也。1999年にハリウッドに集まったショートフィルムを紹介する映画祭としてスタートし、名監督の初期短編映画や、若手映像作家が産み出した作品などを紹介してきた。毎年100以上の国と地域から4000本以上の応募があり、そのうち選りすぐりの作品を一挙上映。グランプリ作品は、次年度米国アカデミー賞短編部門のノミネート選考対象に。これまでにのべ約25万人を動員するイベントへと成長し、ロサンゼルス、シンガポール、ミャンマー、メキシコ、マレーシアと海外に展開も重ねている。
本映画祭では、『台北の朝、僕は恋をする』で長編デビューをしたアーヴィン・チェン監督、『881 歌え!パパイヤ』がシンガポールで大ヒットとなったロイストン・タン監督、2010年に米国アカデミー賞にノミネートされた『マイレージ・マイライフ』のジェイソン・ライトマン監督など、本映画祭を経てチャンスを掴み、長編監督として成長していった例も少なくない。今や第一線で活躍するこれらの監督のように、世界に羽ばたく若きクリエイターを同映画祭は応援している。

 

2012年08月23日
文= 桑島千春

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