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来星記念インタビュー

2013年2月4日

シンガポール初出展 STPIとアートステージで「光」のアートについて語る

写真家杉本博司さん

スクリーンショット 2015-06-30 12.45.52写真芸術家として世界にその名を広く知られている杉本博司さんが、ファッションブランドのエルメス(Hermès)とコラボレーションで「COULEURS DE L’OMBRE」と銘打った展示会をシンガポールで開催、その展示会場であるシンガポール・タイラー・プリント・インスティテュート(STPI)を訪れた。

ギャラリーの中央に置かれた、細長いガラスの塔のような「プリズム」がまず目に付く。これはもともとニュートンが発明した「分光」機能を持つレンズのようなものだという。杉本さんの自宅にもプリズムが置いてあり、冬の朝、日の出の時間帯にはこのプリズムを通して太陽の光が虹色に変化する。壁に反射する光のコンビネーションをカメラで撮影したものが今回展示されている作品だ。

 

 

それは杉本さんの代表的作品「海景」に見られる海と空をカラフルにしたようにも見えるが、水平線は一本とは限らず、また色も赤や黄色、緑、青とそれらの色の間のグラデーションとなっている。なぜか色合いが日本的で、紺はなす紺に、緑はうぐいす色に、そして赤は緋色に見える。エルメスのスカーフ用に撮影された光の色が風呂敷風に見えてしまうのは気のせいだろうか。

 

 

カラフルな作品に囲まれて、杉本さんは白いジャケットに身を包み、穏やかな笑みをたたえておられた。

 

 

AsiaX

今回の杉本さんの作品の光はその色合いが和風に見えるのですが、特にそのような色を選んだというわけではないのでしょうか?

杉本

プリズムを通した太陽光は自然の色で、手を加えたわけではありませんから、特に和風に作ったということではなく、自然の色をそのまま写し取ったものなのです。でも私は古い日本の布を集めていますが、昔は植物染料で染めていたため、布の色も自然の色でした。たとえば藍染の青は藍の色ですよね。太陽光も自然の色ですから、共通するものが感じられるのかもしれません。また使っているカメラはポラロイドなので、より鮮やかに、つややかに光の色を捉えることができるのです。展示している写真の作品は多数ありますが、そのうちエルメスのスカーフに採用した作品は20種類で、それは私が選んだものですから、もしかしたら日本的な色合いが多かったかもしれませんね。

AsiaX

ファッションブランドとのコラボレーションは、杉本さんとしては珍しい試みだったのではないでしょうか?

杉本

ファッション関連からもいろいろなオファーをいただきますが、マスプロダクションは私の仕事ではないので、お断りすることが多いですね。でもエルメスは伝統あるブランドとして手仕事にこだわっており、私が好きな作品をスカーフにプリントする、ということでしたのでお引き受けしました。

杉本博司さんはエルメスとのコラボレーション展示会を開催すると同時に、シンガポールのアートステージにも出展された。世界各国のアーティストが参加したアートステージ。そのメディア向けプレビューの日、杉本博司さんにお話しを伺うためギャラリー小柳のブースを訪れたが、すでに外国人記者が杉本さんの話を熱心に聞いていた。会場を一回りして再度訪ねたときは次の人が杉本さんとお話し中。記者は杉本さんの作品を眺めながら待った。

展示作品のひとつは有名な海景。水と空気とそこに注がれた光だけを捉えた静かな、しかし生命の力を感じさせるものだ。白と黒、その2色の濃淡に映し出されている海と空を見つめていると、水平線の彼方へ吸い込まれてゆくような気がしてくる。杉本さんの作品は自然、特に海をテーマとしたものが多い。なぜ「海」を見に出かけ、「海」を作品とするのだろうか。杉本さんはホームページの中で答えていた。「このありがたくて不思議な水と空気は、海となって私達の前にある。私は海を見る度に、先祖返りをするような安らぎを覚える。そして、私は海を見る旅に、出た」――海景の作品には、人間の存在や時を超えた空気が漂っている。

ようやく記者の番が回ってきた。杉本さんはその日も白いジャケットをさらっと着て、微笑んでおられた。

AsiaX

自然をテーマにされた作品が多いと思いますが、人工的なシンガポールに来られて、どんな印象を持たれましたか?

杉本

確かにシンガポールは人工的な都市国家ですね。でも都市というのは古代ローマ帝国の時代からそうですが、人工的なものなのです。それは文明のひとつの姿ですから。シンガポールは小さな都市国家ですが、さまざまな民族が暮らしていて興味を惹かれました。富裕層から労働者まで格差が大きいように見られますが、そのような社会で人々はどんな気持ちで暮らしておられるのでしょうか。もっといろいろ知りたいですね。リー・クアンユーという人がどのようなビジョンを持ってこの国を造られたのか、聞いてみたいです。

AsiaX

アート・イベントはシンガポールでも増えていますが、今後も杉本さんの展示会はアジア開催される予定ですか?

杉本

招待があるところにはどこへでも行きますよ。何でも勉強になりますから。今まで、思いついたことにはかならず挑戦してきましたし、これからもその姿勢は変わりません。みなさんが予想していることを裏切るような作品を作りたいです。シンガポールにもまた来たいと思っています。

 

インタビューを終えて:シンガポールに滞在されたのはほんの数日間でしたが、さすがに杉本さんは大変鋭くこの国を観察されていたようです。自然だけでなく社会とそこに暮らす人間を日々見つめることがアーティストとして大切なことなのでしょう。昨年、杉本さんは週刊文春の対談「この人に会いたい」の中で、インタビュアーの阿川佐和子さんに「日本人の感性そのものが世界遺産なのではないかと思います」と語っておられましたが、杉本さんご自身にあふれるような感性と、その感性が捉えた現象を高度な技術を駆使して作品に仕上げてゆくエネルギーがみなぎっているとお見受けしました。アートステージは終了しましたが、STPIの展示会は3月2日まで続きます。杉本さんの自然に対する深い思いが込められた作品をぜひ鑑賞してください。

スクリーンショット 2015-06-30 12.45.59

杉本博司

1948年東京生まれ。立教大学経済学部卒業。世界各地を旅行後、1970年にカリフォルニアに居を構え、ロサンゼルス・デザインアート・センター・デザイン・カレッジで写真を学ぶ。1974年にニューヨークに移り、写真を使った現代美術に取り組み始めた。現在は東京とニューヨークを拠点に活動。これまでに、光そのものをテーマにした「劇場」シリーズや、世界中の海を同一手法で撮影した「海景」、世界的に有名な建造物に取り組んだ「建築物」シリーズなどを手掛けている。

COULEURS DE L’OMBRE概要

開催日 2013年1月23日(水)~3月2日(土)
時間 10:00~18:00
日曜・祝日休館、月曜日は予約のみ
会場 シンガポール・タイラー・プリント・インスティテュート(STPI)
入場料 無料
41 Robertson Quay, Singapore 238236

2013年02月04日
文= セガラン郷子

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