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スペシャルインタビュー

2014年3月3日

ヴォーゲル夫妻の情熱の力と人間愛、 自分が得た感動をそのまま映像で伝えたい。

映画監督佐々木芽生(ささきめぐみ)

スクリーンショット 2015-06-30 12.13.50ドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(原題:Herb and Dorothy)とその続編『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物』 (原題:Harb and Dorothy 50×50)が東南アジアで初めて今年1月に、旧国会議事堂跡にできた複合アート施設であるアートハウスで上映された。その際、ニューヨーク在住で映画の主人公であるドロシー・ヴォーゲルと映画監督の佐々木芽生(めぐみ)両氏が来星。地元紙でも大きく取り上げられ、2作品を上映した計8回は全席完売となった。夫妻の偉業を後世に残そうと映画としてまとめあげた佐々木監督に話を聞いた。

――ヴォーゲル夫妻のストーリーを映画化したきっかけを教えてください。

2002年にニューヨークでテレビ番組制作のため訪れた現代美術アーティストの展覧会で初めてヴォーゲル夫妻の存在を知りました。その展示作品のすべてが夫妻のコレクションであり、しかも彼らは名だたるお金持ちでもなく、普通の公務員という事実に驚いたんです。その後、彼らに直接会う機会が訪れ、アートを収集するのに必要なのは、アートを見る卓越した目と、財力よりもアートを愛しアーティストをサポートする気持ちだということを学びました。
また、夫妻は所有するコレクションを1点も売らずに、2,500点近い作品を1992年に米国ナショナル・ギャラリーに寄付していた。このストーリーを世に伝えたいと思ったわけです。が、テレビ番組にするには制約もありますし、何より自分が得た感動をそのまま伝えたいと思い、短編のドキュメンタリー映画を制作しようと。しかし、夫妻を半年間追いかけるうちに、まるで考古学の発掘作業のごとくたくさんの発見があり、この2人は歴史に残されるべきコレクターだということがわかった。そこで長編のドキュメンタリー映画にすることを決心しました。

 

――映画を制作する上で、最も苦労したことは何ですか?

何より制作資金を集めるのに苦労しました。これまで何人ものテレビ番組や映画のベテランディレクターが2人にドキュメンタリー制作の話をもちかけたものの実現しなかった。恐らく制作には莫大な費用がかかると皆知っていたから。各種財団からの助成など受けつつも、全体の3分の1の経費は自分の家を抵当に入れたりクレジットカードの限度額を超えた借金までして捻出しました。ハーブの健康状態が目に見えて悪くなる中、早く完成させて彼に見せたいという一心でしたから、映画が完成したときは、ほっとすると同時に、全身脱力状態になりました。映画を配給するとなるとまたお金と時間がかかります。映画のトレようやく上映にこぎつけた後、各国の映画祭に招待されたり米国ハンプトン映画祭でドキュメンタリー最優秀作品賞を頂いたりと、思いもしなかった機会に恵まれました。が、アメリカでは1作目の評判が良くても続編にスポンサーがつくことは少ない。新しいアイディアを常に求める傾向から、続編には冷たいんです。2作目も同じく資金難に苦しみました。

 

――2作目の資金難、クラウドファンディングで解決されたとか。

アメリカでは「Kickstarter」というウェブサイトを通して730人のサポーターから8万7,000 ドルが集まり、ストップしていた撮影を終えることができました。その後、日本でも「Motion Gallery」というウェブサイトを利用し1口500円から100万円の募金を集め、さらに前売り券、ドロシーとの食事会、プライベート試写会などの特典を用意しながら日本国内で1,500万円近い資金援助が得られた。その資金のお陰で無事配給まで実現することができたのです。 ※インターネット上で多数の支援者から小額ずつの資金を募る資金調達システム

 

――長年の制作活動を通してヴォーゲル夫妻から学んだことは?

人生を豊かにするものは、お金、職業や社会的地位ではない。人の幸せとは何か、生き方そのものを教えてくれました。夫妻の人生は、豊かで素晴らしい。そこにたどり着けたのは情熱の力があったから。情熱を傾けられるもの=アートであり、人生の早いうちにそれが見つかっていたというのも大事です。次に、愛情。アートに対する愛情のほかに、アーティストたちとの友愛、それから夫婦愛。
またアートについて、アートとはほんの一握りのお金持ちや限られた人だけのためでなく、すべての人が楽しめるものであるということを学びました。

 

――日本人監督がアメリカ人夫妻のドキュメンタリーを撮り、アメリカで上映。珍しいのでは?

アメリカのメディアで、私自身が日本人映画監督と紹介されたことはありません。アメリカ、特にNYでは、作家の国籍、人種、男女、年齢を問わない。作品だけで評価されるのでいたって公平です。そのかわり、まずい作品を発表すると容赦なく酷評される。それはベテランとか新人とかは関係なく、とても厳しい世界です。

 

――佐々木監督流の物事を成し遂げるアプローチとは。

まずは決意すること。一旦、やると決めたら、目標に向って前に進むことだけを考える。決めたことを達成するには、小さなタスクを積み上げていく。何事に対しても、常に頭で整理して紙に書きだして、1つ1つ達成したことは、チェックして行く。その達成感をバネに自分のやる気をそがないようにする事も大事です。
また、私は監督としてクリエイティブな仕事をしながら、資金調達や配給など実務を負うプロデューサーの仕事を兼務してきました。同時にこなしていくには、仕事を「コンパートメンタライズ」する。つまり頭の中を上手く区分けして、クリエイティブな仕事とそれ以外の実務は、時間や場所によって切り替えながら邁進する。例えば、NYにいる1週間は、日中はここまでと仕事の分量を決めたり、または午後と午前で果たす役割の時間を分けるとか。

 

――今後の活動のご予定を教えてください。

現在、3本目のドキュメンタリー映画制作に取り組んでいます。次作は、環境問題です。日本は、「世界中からクジラを捕り食べている」と非難の的となっています。この捕鯨問題を検証しながら、誰がどういう理由である野生生物を食べることの良し悪しを決めるのかを問い、野生生物と人間の共存について考えます。2010年から撮影しており、映像はすでに100時間分ほど撮り貯めています。こちらのプロジェクトでは、パートナーを組める優秀なプロデューサーを募集中です。

 

――シンガポールの読者へメッセージをお願いします。

スクリーンショット 2015-06-30 12.13.57シンガポールはアジアの中でもニューヨークと似ているところがあると思います。いろんな人種、宗教、文化を持つ人々が、お互いを尊重しながら共存している。個人個人が違うことに対する寛容さを感じます。 同じであることが当然とされがちな日本ではありえない環境です。日本の枠組みを越えてアジア、そして世界の価値観の中で思う存分やりたいことをやってほしい。私はニューヨークに育てられてここまで来ました。自由と可能性があるシンガポールでなら、皆さんもきっと夢を実現できるはず。

佐々木芽生(ささきめぐみ)

札幌市生まれ。青山学院大学仏文科卒業。1987年に渡米。ニューヨークのNHK総局でキャスターやリポーターなどを経験した後、1996年に独立してテレビのドキュメンタリー制作に携わる。2008年に初めて監督・制作を担ったドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー」が国際映画祭で受賞するなど高い評価を受け、続編の「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物」を2013年に公開。現在、クジラをめぐる日本と欧米の価値観を考える作品を制作中。

 

2014年03月03日
文= 桑島千春

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