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来星記念インタビュー

2014年9月15日

「このあたりの者でござる」 ―狂言の英智をジャンルや国境を越えて発信

―『三番叟』は奉納のための神事、外国の方には特に理解が難しいのでは。

神事ですからセリフにもほとんど意味はなく、(観客は)ただ感じてくれればいい。そこにある躍動感というのは、いわばお祭りと一緒。カーニバル、サンバなどのようにリズムに身を任せて気持ちよくなってくれれば。荘重な趣きの中、神への儀式という重みを持って始まるのですが、見ているうちに一種のエクスタシーというか、高みに到達するのが祭りごとの気持ちよさで、悦に入るとかピピッとくる感覚が日常から離れさせてくれる、それが神事でもあります。
身を任せるうちに眠くなるのも一種生理的なところに訴えているから。何もわかりませんでした、という方もいますが、私に言わせれば逆に何をわかろうとしたんですかと(笑)。

―今回のシンガポール公演で印象に残ったことは。

オン・ケンセンさんが父の『三番叟』を見て非常に喜んでくれたのがうれしかった。私が『三番叟』を演じる時は技の切れや肉体的な躍動感で見せようと思いますが、そういう若さだけではない芸の境地を見せるというのが伝統芸能のアイデンティティなんですね。つまり、若者ほどは肉体の切れはなくとも技の充実感、大きな世界観を持っているという意味ではまさしく世阿弥がいう「老木(おいき)の花」、苔むした古木に1、2輪梅の花などが咲く、それが最上位の幽玄であるというのが世阿弥の境地なわけです。それを日本の美学とすれば、父の『三番叟』がまさしくそのものとオンさんが言いました。私の(演技)は、もう少し盛りで花の数も多いよとなれば、外国の方にはわかりやすいかもしれませんが、凝縮感や世界観はあそこまで出せない。両者の舞台を見て頂ければ、芸とは何ぞやということがわかって頂けるでしょう。14歳の私の息子もあと5年もすれば『三番叟』をやりますよ。その未熟であろうが青いくらいの若き桜、そして壮年期の桜、老境に入った花をそれぞれ見る、伝統芸能の楽しみ方のひとつです。

―狂言のみに留まらず、シェイクスピアの舞台を演じたり映画出演をされたりと活動の幅が広いです。

狂言自体の表現はとても深いものですが、狂言との共通部分を超えているものが他のジャンルにはありますからね。時に新しく実験的なジャンルにも挑戦しなければ。また海外に出て自分に揺さぶりをかけることで自分の存在を知る。時に人は旅行すべきだ、同じ組織の中で煮詰まっているよりは外へ出ろともいいますが、同じコミュニティから離れることで考え方が変わることがありますよね。人間として、表現者として、バランス感覚を持って生きていく上である種必要不可欠なことではないかと私は思います。外に出るときも安売りするのではなくて、狂言師としてのプライドと責任感を持ちつつ、同時にビギナー、挑戦者として教えを乞うつもりで、そういう気持ちでやっています。もちろん、その地に留まって何かを極めていくという方もいるわけで、その人のスタイルがあっていい。
(私が出演した)映画『陰陽師』を知る方がシンガポールに案外多かったですね。そんなきっかけでも構わないので、映像や子供番組などを通して、狂言は狂言のためのものではなく、人間そして社会のためのものである、そこをアピールしたい。能・狂言は2001年に世界遺産(無形文化遺産)となっているだけあって、深い考え方やテクニックがある。狂言にある英智をいろんな意味で活用して発信していく、それが私の使命になっていると思う。ですから、それが海外での文化交流だったり、現代劇をつくること、映像に出ること、教育の場などで発揮できればと思います。

―今後の主な活動について教えてください

スクリーンショット 2015-06-30 11.20.38来年は中島敦原作の『山月記・名人伝』を作り直す予定で、そんな新作を持って来星したい。漢字や漢文の要素が多く、シンガポールは華人も多いですから、共感を持ってもらえるかと思います。また、2020年開催の東京オリンピックに向けて、事前の文化プログラムにアイディアを提供するという役目を負っておりまして、いろいろ具体的なプログラムを考えていかなければいけないなと。

―シンガポール在住の方へのメッセージをお願いします。

(人間は)皆同じ、一方で日本人としてのアイデンティティを持って楽しく生きて頂きたい。

野村萬斎(のむら まんさい)

1966年生まれ、東京都出身。祖父・故六世野村万蔵および父・野村万作に師事。重要無形文化財総合指定者。3歳で初舞台。東京芸術大学音楽学部卒業。
「狂言ござる乃座」主宰。国内外で多数の狂言・能公演に参加、普及に貢献する一方、現代劇や映画・テレビドラマの主演、古典の技法を駆使した舞台作品の演出、NHK『にほんごであそぼ』に出演するなど幅広く活躍。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督。

 

2014年09月15日
文= 桑島千春

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