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法律相談

2014年10月20日

Q.国際結婚した夫との離婚を考えており、子供を連れてシンガポールから日本に帰国したいと思っていますが、子供を連れ戻されることがあると聞きました。ハーグ条約について教えて下さい。

国際結婚と離婚、子供の帰国 〜ハーグ条約〜

「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)は、国際結婚や国際離婚の増加とともに、一方の親による子供の連れ去りに関する問題が増加したことを背景に、子供の利益の保護を目的として1980年にハーグ国際私法会議で作成された国際的なルールです。シンガポールは2010年に加盟し、日本においても2014年4月1日から発効しています。

 

ハーグ条約では、子供の監護権(子どものそばにいて世話や教育をする親の権利と義務)に関する手続きは、「子供がそれまでに居住していた国(この場合シンガポール)で行うことが望ましく、原則として一旦子供を居住していた国に戻す」という考え方を基本にしており、子供を元の居住国に返還するための国際的な協力の仕組みや、親子の面会交流を実現するための協力の仕組みについて定めています。

 

シンガポールにおいて監護権を侵害された親が子供の返還を希望する場合(例えば他方の親が子供を連れて別の国に出国した場合)、返還を申請するためには以下の6つの条件が必要です。

 

  1. 返還を求める子供が16歳未満であること
  2. 返還を求める子供について監護権を有していること
  3. 子供がシンガポールから連れ去られた時点で、監護権を行使していたこと
  4. 子供がシンガポールから連れ去られる直前の時点で、子供の生活の本拠がシンガポールにあること
  5. 子供が連れ去られた先が、連れ去られた時点でシンガポールとの間でハーグ条約の効力が生じている条約締結国であること
  6. 返還を希望する親の同意や裁判所の命令に基づかずに、子供がシンガポールから不法に連れ出されこと

 

ただし、これらの要件を満たす場合でも、不当な連れ去りから1年以上が経過していて、かつ子供が新しい環境に順応している場合や、元の居住国に戻すことが子供に肉体的または精神的に悪影響を及ぼす場合などの一定の場合には、子供の返還を求める申請が認められない場合もあります。

 

監護権を侵害された親は、居住国の中央当局か、子供が連れ去られた先の国の中央当局に子供の返還を求める申請を行うことができます。そして、子供の所在を特定した後、まずは任意の友好的な解決を試み、友好的な解決が困難な場合には司法機関によって子供の返還について判断されることになります。

 

また、子供の返還に関する審理中に子供が国外に連れ出されることを防ぐために、裁判所は、子供を国外に連れ出すことを差し止めることも可能です。

手続きにかかる期間は、子供がいる場所や連れ去った親の対応などに影響されますので、事案によって異なります。費用については、法律扶助制度による支援を受けることが可能な場合があります。

 

現在、ハーグ条約の締結国は、アメリカ、カナダ、EU全加盟国、タイ、韓国など92ヵ国(2014年5月現在)に及んでおり、例えば、アメリカ・シンガポール間ではすでにハーグ条約の効力が生じていますので、子供を連れてシンガポールからアメリカに移動した場合でも同様の問題が生じます。また、アメリカなどの一定の国では、一方の親が他方の親の同意を得ずに子供を連れ去る行為が、犯罪とされることがあるので注意が必要です。

 

ご相談の件については、夫の同意を得ることなく子供を連れて日本に帰国した場合に、上記のような手続きが夫側で行われ、子供をシンガポールに戻すことになる可能性があります。あらかじめ話し合いをすることが望ましいでしょう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.267(2014年10月20日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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