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法律相談

2010年5月17日

Q.前回、このコラムで紹介された、高齢労働者の再雇用に関するガイドライン(案)について、今年の早い段階でガイドラインの完成版が公表されるということでしたが、完成版はもう公表されているのでしょうか。

高齢労働者の再雇用(その2)

2010年1月1日 Vol.159の本法律相談で、高齢労働者の雇用に関する政労使三者委員会によって2009年11月16日に公表された高齢労働者の再雇用に関するガイドライン(案)の内容をご紹介しました。その後、3月11日に上記ガイドラインの完成版がMinistry of Manpower (以下、「MOM」といいます。)から公表されました。ガイドラインの完成版は、MOMのウェブサイト内にて確認することができます。ガイドライン案からの大幅な変更点はなく、主な変更点は次の2点です。

 

まず、一つ目ですが、ガイドライン案では、雇用主は望ましくは労働者が62歳の定年に達する1年前には再雇用に関する話し合いを開始することとされていましたが、この1年前という期間が完成版では6ヵ月前に変更されました。これは、1年も前から再雇用に関する話し合いを開始するのは実務上難しいとの会社側の意見を受けたものです。

 

次に、二つ目ですが、健康・能力上問題がない労働者(適格労働者)であるにもかかわらず、雇用主の方で再雇用することができない場合、ガイドラインは、雇用主に対して、当該適格労働者が次の仕事を見つけるまでの期間生活に困らないようにするための一時金(Employment Assistance Payment 以下、「EAP」といいます。)の支給を義務付けています。ガイドライン案ではEAPについて最低支給額・最高支給額を定めるべきと述べるにとどまり、具体的な金額は提示されていませんでした。これに対して、完成版では、より明確な基準を求める労使双方の要請を受け、月給の3ヵ月分をEAPの支給額の一つの目安として、EAPの最低支給額をS$4,500、最高支給額をS$ 10,000としました。この点、最低支給額があまりに低い金額だとEAPの支給と引き換えに高齢労働者の再雇用を行わず賃金の安い若年労働者の雇用を行う会社が多く出ることが考えられます。一方で、最高支給額を定めたのは、高齢労働者を必要以上に保護することは他の労働者とのバランスを欠くことにもなりますし、また会社がEAPの負担に備えるために負担額を予測可能とし、また会社に対する過度の負担を回避するためと思われます。

 

適格労働者への再雇用の機会の提供、EAPの支給など会社に対する要求ばかりに目が向けられがちですが、ガイドラインは、高齢労働者に対しても再雇用され社会に貢献し続ける努力をすることや再雇用に際して柔軟な対応をとることなどを求めています。会社、労働者双方とも、同ガイドラインに従うことで、2010年施行予定の、現行の定年年齢の62歳を越えた労働者の再雇用に関する法律に備えることが求められています。

 

なお、定年年齢を定めている法律(Retirement Age Act、シンガポール市民と永住権保持者にのみ適用)は、現在、60歳を超えた労働者の給与を10%の範囲内で減額調整することを認めていますが、この2012年の再雇用に関する法律の成立に合わせて、この取り扱いの見直しも検討されるようです。このように、高齢労働者をめぐる労働条件については引き続き注意を払う必要があります。

取材協力=Kelvin Chia Partnership 濱田 和成

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.167(2010年05月17日発行)」に掲載されたものです。

本記事はは一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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