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法律相談

2009年4月20日

Q.知人が貸したお金を返してくれないので、裁判を起こしたいと思います。裁判を起こす場合、どんなことに気をつければよいでしょうか。

シンガポールでの訴訟手続きについて

紛争が発生した場合、まずは当事者同士で話し合いをして解決できればそれに越したことはありません。しかし、話し合いをしても解決できない場合、又は話し合いをすることもできないような場合には、裁判を起こすことが考えられます。

 

裁判を行う前にまず考えなければならないことは、勝訴するために必要かつ十分な証拠があるかどうかです。例えば知人にお金を貸したという場合ですと、口約束だけでお金を貸していた場合には、証拠がないため、裁判で勝つことは難しくなります。ここでは、借用証をきちんと取っているかどうかということがポイントになります。

 

また、仮に裁判で勝訴しても、相手が資産を持っていなければ、判決で認められた金額を回収することができず、裁判をやるだけ無駄になってしまいます。したがって、勝訴した場合に確実に回収できるかどうかをあらかじめ検討しておく必要があります。なお、判決を得た後には、敗訴した相手方がどのような資産を持っているのかを開示させる制度があります。

 

さらに、弁護士費用のことも考えなければなりません。日本では、訴訟を行う場合の弁護士費用は、着手金プラス成功報酬という体系が用いられることが多く、この場合敗訴したときの弁護士費用は着手金のみで済みますが、シンガポールでは、このような成功報酬体系は法律上認められていません。したがって、裁判をする場合、勝敗にかかわらず一定の費用がかかってしまうことを覚悟しなければなりません。請求額が少ない場合には、たとえ全面勝訴しても弁護士費用の方が高くなってしまう場合もあります。ちなみにシンガポールでは、裁判に勝訴すると相手方に弁護士費用の一部を負担させることができますが、全部を負担させることは一般的にはできず、また、相手に十分な資産がなければ回収できるとは限りません。

 

裁判は、最終的には証人尋問などを行うトライアルという法廷での手続きを経て判決で終結するのが基本です。しかし、実際には、トライアルまで進む前に当事者間で和解をして終わらせたり、調停機関を利用して当事者間での合意を調停で成立させることも多くあります。和解や調停のメリットは、裁判手続きが早く終了する上、裁判費用が安くつくことです。裁判費用や弁護士費用は、トライアルまで進むと飛躍的に高くなってしまいます。その前に和解や調停により裁判を終了させることは、経済合理性の点から言っても当事者にとって大きなメリットがあります。さらには、和解や調停は両当事者が納得して合意するものですので、判決によって強制的にお金を回収するよりもスムーズに支払いが受けられる可能性が高まります。

 

調停機関を利用した調停は、裁判を起こすことなく利用することもできます。シンガポールには、紛争解決手段として調停センター(Singapore Mediation Centre)があり、個人の方でも紛争を調停に持ち込むことができます。調停では、第三者である調停員が当事者間に立って両者の話を聞き、妥当な解決に向けて調整してくれますので、紛争を合理的にかつ迅速に解決しやすくなります。また、建築紛争など、専門知識が必要となるような事件では、建築家などの専門家が調停員として加わります。調停センターを利用した調停では、多くの事件が短期間で解決しています。ただし、調停は両当事者の任意の合意が前提となるため、相手方がそもそも調停の場に立つことを拒否するような場合には、調停を利用することはできません。

取材協力=Kelvin Chia Partnership 外海 周二

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.143(2009年04月20日発行)」に掲載されたものです。

本記事はは一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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