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法律相談

2008年12月15日

Q.働き盛りの夫が交通事故に遭って亡くなってしまいました。私には収入はなく幼い子供も抱えており、これからの生活がどうなるのかとても不安です。シンガポールでは、損害賠償として、治療費の他、慰謝料や失われた将来の収入等も受け取れるものなのでしょうか。

交通事故の損害賠償について

交通事故により人が死亡した場合、その事故につき運転者に過失があれば、死亡した被害者の遺族は、運転者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

 

遺族が損害賠償請求を行う場合には、(A)遺族が相続人として、死亡した被害者の受けた損害を被害者に代わって賠償請求する場合と、(B)遺族自身が、被害者の死亡によって遺族自身が受けた固有の損害を賠償請求する場合とがあります。

 

(A)遺族の相続人として請求する損害賠償のうち、まず、金銭的損害としては、被害者が死亡するまでの間入院等により働けずに得られなかった逸失収入、死亡するまでにかかった医療費、葬式費用、遺産管理状の取得コスト、があります。

 

では、被害者の死亡時以降の将来の収入についてはどうでしょうか。この点、日本では、死亡した被害者が本来ならば一定年齢まで働いて得られたはずの逸失利益を請求することができるのですが、シンガポールの法律では、このような死亡時以降の将来の収入については、請求することができません。

 

上記のほか、本来金銭には換算できない損害として、事故により受けた肉体的・精神的な苦痛に対する賠償が認められています。シンガポールでは、死亡事故により死亡した人が受けた苦痛に対する損害賠償は、事故から死亡までの間に一定の期間がある場合にのみ認められます。苦痛を受けた場合に認められる賠償金額は、受けた苦痛の程度・期間により異なります。過去の裁判例では、事故後51日間生存した被害者の苦痛に対して2万シンガポールドルの賠償が認められた例などがありますが、事故後1日で死亡したケースでは、1,000シンガポールドルだけ賠償が認められたケースがあります。

 

金銭で換算できない損害には、上記のほか、被害者が事故に遭わなければ送れたはずの快適な生活が失われたことに対する賠償が認められています。この損害についても、認められるのはあくまでも事故後、死亡までの期間についてだけですが、苦痛に対する損害賠償と異なるのは、被害者が昏睡状態になって苦痛を感じることがないような場合でも認められることです。

 

次に、(B)遺族固有の損害についてですが、これにはまず、近親者を失ったことによる精神的な損害があります。シンガポールでは、この損害額は、被害者の近親者全体で合計1万シンガポールドルと決められています。したがって、法律上認められる近親者が複数いる場合には、各人は1万ドルを人数で割った額を受け取ることができます。

 

また、遺族が被害者の収入により生活を営んでいたような場合には、その遺族は、合理的に期待された金銭的利益、すなわち被害者が生きていれば援助を受けられていたであろう利益を請求することができます。これは、親が死亡した場合の子供に限らず、子供が死亡した場合の親にも認められることがあります。ただし、遺族が死亡した被害者から援助を受けたであろうことが合理的に期待されることが必要であり、過去の裁判例では、4歳の子が死亡した場合に、その親が将来経済的援助を受けられたかどうかは不確か過ぎるとして賠償を認めなかったケースもあります。

 

具体的な金額は、遺族が1年間に受けられたであろう合理的な援助金額に、期待された援助年数を乗じますが、これは本来は将来にわたって分割で受け取るはずの金額ですので、もし一括で受領する場合には、合計額から利息分が差し引かれます。また、被害者が生きていればかかったであろう生活費も控除されます。これらの金額は、遺族が受け得た扶養額の将来の増減の可能性、被害者の教育レベル・潜在的な収入の増減などによっても異なりますので、実際に受け取れる金額は、被害者の職業・年齢、遺族の家庭環境などによって大きく異なってきます。

取材協力=Kelvin Chia Partnership

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.136(2008年12月15日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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