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法律相談

2005年11月7日

Q.先日オーチャード・ロードのあるデパートで靴を190ドルで購入しました。帰宅後改めて履いてみると若干サイズが大きく足に合わなかったので、店に戻り返品したいと申し出ました。ところが、店員が支払カウンターに貼ってある“返品不可”の張り紙を指差し、この通りであるから返品・返金には一切応じないと申しました。靴を購入した時点でその張り紙には気がつかず、店員も説明しませんでした。シンガポールの法律上、返品・返金は可能ですか?

返品・返金

結論からすると、原則としてサイズが合わないという理由だけでは返品は難しいといえます。

 

法律上返品が認められるとするためには、店がSale of Goods Act 14条の規定に沿って合理的と思われる商品価値を備えた靴を提供していなかったこと、または、“サイズが合わない場合返品可能”という契約条件が当初から存在していたことを証明する必要があります。

 

まずSale of Goods Actによる場合、店側は顧客の求めに応じて、合理的と思われる価値を備えた靴を提供していれば責任を果たします。この判断には、値段、品質、安全性、外観、故障などがないかの事情を総合的に勘案し、結果その商品が通常の使用に耐える価値を備えていればよいと解されます。したがってサイズがぴったり自分に合うかといった主観的な事情までは責任を負いません。また、靴の試着をしたならば一般的な品質を確かめる機会は与えられていることからしても、この主張は難しい事例と思われます。

 

次に、“サイズが合わない場合返品可能”という条件が存在するかという点について、このような条件を黙示の条件といいます。明示されなくとも当然に存在する暗黙の了解事項ということです。売買契約における黙示の条件は、商習慣に照らし誰の目から見ても明白かつ合理的な条件でなければ認められないのが法律上の原則です。この点“サイズが合わない場合には返品を受け付ける”という条件は、商習慣上誰の目にも明らかなものとまではいえないと思われます。一般には、通常一度支払いがされた後は、購入した商品は返品できないのが原則というのが理解であり、店先の“返品不可”の表示もそのような理解を表すものともいえます。実際には返品に関する事項は、店側が事務処理の都合や顧客サービスなどを総合的に考慮して個別に条件を決めている事項であり、明らかに存在する商習慣とまではいえないのではないでしょうか。

 

以上と別に“Consumer Protection(Fair Trading)Act”(2004年施行)による場合ですが、この法律は商業道徳的に許されない不公正・不公平な取引を規制し消費者保護を意図するものです。例えば売主が取引上の強い地位を濫用し、消費者の誤解を招いたり、消費者を偽罔した場合、損害賠償等を請求することが可能です。例として、店員がその靴が今日だけ割引であり今買うべきであるとしたので高額な靴を購入したが事実ではなかった場合、判断力の劣るお年寄などが半ば強制されて不要な靴を購入し生活に困窮したような例では、この法律に基づく請求が可能な場合があります。但し靴のサイズ違いの事実のみではこの法律の保護の対象には含まれません。

 

現実的な解決方法はデパート側と返品を交渉することでしょう。交渉がうまくいかない場合、CASE(Consumer Association of Singapore 政府関連機関)へ、不服申立て及び仲裁を依頼するというのも方法です。CASEは当事者間での自主的な問題解決を行うための仲介を行います。なおこのサービスには若干の料金がかかります(5000ドル以下の訴えの場合会員料金15ドル、非会員35ドル)。

取材協力=Kelvin Chia Partnership

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.062(2005年11月07日発行)」に掲載されたものです。

本記事はは一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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