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会計・税務相談

2009年9月7日

Q.シンガポールで個人で事業を始めたいと考えています。個人事業として登記するのと会社を設立するのとでは、どのような点が異なるでしょうか。

シンガポールでの個人事業と会社設立の違い

シンガポールで事業を行うための形態にはいくつかありますが、個人事業(Sole Proprietorship)は、その中で最も簡単な事業形態です。個人事業のよいところは、法律による規制が少なく、法令遵守のための手間や費用があまりかからない点です。一方、不利な点は、無限責任であり、出資者が負うべき債務を限定できないところです。個人事業は、一人で行う小規模な事業の初期段階に向いています。

 

会社は、より大きな規模の事業にも対応できる形態です。会社には家族経営による小規模な事業だけでなく、株式を公開して一般から出資を公募する上場会社も含まれていますので、会社法その他により出資者や債権者を保護するための様々な法的要件が課せられています。そのため、法令遵守のための手間や費用が個人事業より多くかかります。但し、これらの法的要件を満たすことにより個人事業より高い信用を得ることができ、銀行から借入を行ったり、第三者と様々な契約を締結したりする上で、より有利に話を進めることができるといった利点があります。

 

また、会社の中でも、免除私会社(Exempt Private Company)と称される小規模な会社に対しては、一定の法令遵守の減免措置があります。免除私会社とは、出資者が20名以下の個人のみにより構成される会社を指します。免除私会社については、例えば、一会計年度の売上高が5百万Sドル未満の場合、会計監査人による法定監査が免除されます。

 

税務上、個人事業の所得は、そのまま出資者個人の所得として個人所得税率で課税されます。一方、会社の所得は、法人所得として法人税率で課税され、株主が配当として受け取る所得については免税扱いとされます。一般論として、課税所得が少ないうちは個人として課税された方が有利ですが(税務上の居住者である場合に限られる)、一定以上の所得になると法人として課税された方が有利になります。

 

個人事業も会社も、登記は会計法人監督庁(ACRA)に対して行います。出資者が外国人であり、シンガポールに滞在して自ら経営に携わる場合、事業形態が個人事業であるか会社であるかを問わず、出資者はアントレパス(Entre Pass)と称する就労ビザを取得する必要があります。

 

上述の事項も含め、個人事業と会社を比較した場合の主な相違点として、以下のようなものが挙げられます。

 

 個人事業 会社
法的人格
個人 法人
設立
18歳以上の個人1名により設立 1名以上の発起人により設立
定款を作成し登記すること
出資者責任
無限責任 有限責任
役員
出資者が外国人非居住者の場合、
マネージャー(居住者)1名以上を選任すること
取締役1名以上(うち居住者1名以上)
秘書役1名以上(居住者)
会計監査人(法定監査が免除されない場合)
主な法令遵守事項
毎年、登記を更新すること 会計監査人による法定監査を受けること
定時株主総会を開催すること
年次報告書を登記すること
その他会社法の規定を遵守すること
登記料
S$50 S$300(株式会社の場合)
所得税 個人として課税 法人として課税

 

どちらの形態が適しているかは、事業の規模や将来的な計画、利益還元、税金等を総合的に勘案した上で決める必要があるでしょう。

取材協力=斯波澄子(Tricor Singapore Pte. Ltd.

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.152(2009年09月07日発行)」に掲載されたものです。

本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別ケースについて、正式な会計士の助言なく、本情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。

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