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ビジネスインタビュー

2004年7月20日

初心を忘れず、クオリティをキープしていきます

シンガポール紀伊國屋書店 グループ・マネージング・ディレクター 十河宏さん

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シンガポール紀伊國屋書店で21年邁進してきたベテラン森啓次郎氏を引き継いで、この7月からグループ・マネージング・ディレクターに就任した十河宏氏。シンガポール以下、インドネシア、マレーシア、タイ、オーストラリアに台湾と、広くカバーすることになる。
今回、シンガポール紀伊國屋書店の看板を担うにあたって十河氏は「今は地に足を付けて、これまで築きあげてこられた高いクオリティを保つことが第一と考えています」と語る。

 

「シンガポールは多文化政策のもと、今後も発展を続けていくと予想され、より多くの人が書籍を必要とするでしょう。弊社はどのように貢献できるのか考えながら有機的な成長を続けていきたいですね。」

シンガポールでの売上の内訳は、和書が約15%を占める。在星邦人人口の減少は痛いが、非常に重要な顧客層であることに変わりはない。特に、日本の雑誌などはシンガポール人にも好評で、紀伊國屋書店にとって、さらなる日本語コンテンツの強化は今後の要ともなる課題だ。
丸善の撤退は、シンガポールで唯一、幅広く和書を扱う書店として、さらなる責任をもたらしたが、同時に競争の厳しい当地では、紀伊國屋書店ならではの強みともなった。英書だけでない言語ミックスの書籍を提供できる点が競合他社との差別化に貢献しているからだ。

 

とは言え、書籍小売業界も厳しい価格競争から逃れられない時代である。90年代半ばから競争が激化したが、特に1997年の米系大型店進出以降は、特定の売れ筋書籍を対象にした一点集中の安売りにも対応せざるを得なくなった。顧客に値ごろ感を持ってもらうために20%オフのクーポン・キャンペーンなども行っているが、紀伊國屋書店では価格至上主義ではなく、付加価値を提供する戦略を重視している。

 

「シンガポールのお客様は目が肥えています。紀伊國屋書店としては、広くて深い品揃えを提供して、お客様の選択肢を広げることですね。」

また、シンガポール紀伊國屋書店では、「ブックウェブ」というオンラインの在庫検索・注文サービスも提供している。
「売り上げベースではまだ微々たるものですが、まず検索してから来店される方は多数おられると思います。顧客の潜在的需要を掘りおこすサービスと位置づけています」と十河氏は言う。
運営の面から見ると、シンガポールの紀伊國屋書店は正社員150名、パートを入れて総スタッフ数はおよそ210名と、日系の企業としては大所帯だが、コンパクトで風通しの良い組織作りを心がけている。シンガポール人のマネージャー、ディレクターを起用し、日本のやり方を伝えながらも、日本での常識を押し付けず、国によって異なったやり方の中から良いものを選び出して取り入れる弾力的なマネージメント方式を採用している。
さて、非常に控えめで、温厚そうな物腰からはまったく想像がつかないのだが、十河氏いわく「もともとは短気なたちでした」。

 

「でもシンガポールではまだキレたことがありません。」

異なる文化、習慣の社員と働くには「短気では体が持ちません」と穏やかに笑う。
最初に海外赴任したのは、1991年から7年間勤務したロンドン事務所だった。「ロンドンで忍耐力を身につけました」と十河氏が語る典型的な例は、ロンドンに赴任して間もない頃起こった。オフィスに小型犬を連れて出社した社員に注意したところ、どんどん熱くなり、ついに怒鳴り合いにまで発展。その社員とは、その後しばらくお互い口をきかないくらいの大喧嘩だったという。「問題があれば、海外では特に論理的に解決することがとても大事だと学びましたね」と淡々と語る。
初めは英語が苦手で、空港の出入国管理でも苦労していたのが、今では異なる訛りも聞き分けられるほどになったのも、ロンドン駐在7年の賜物だろう。現在は「2年前にシンガポールに赴任したときは面食らったシングリッシュのアクセントも理解できるようになりました」とにっこり。
十河氏は横浜市立大学でフランス実存主義文学を専攻。なかでも「超越」と言われる概念に惹かれた。瞬間が重なることで、時間は更新されていくという概念で、洋の東西を問わず哲学に存在するものだ。

 

「つまり、一瞬一瞬の積み重ねによってどんどん現在が新しくなるわけで、その流れに身を置く一人として『初心忘るべからず』と自戒しています。シンガポールの競争は激しいですが、常に初心に立ち返り、高い水準のサービスと品揃えを提供することが今後の発展につながるでしょう。」

十河 宏(そごう ひろし)

1985年紀伊國屋書店入社。「遅読」だが読書好き。クンデラ、エーコ、ポール・オースターなどを英書でたしなむ。最新のおすすめは、新潮新書の『武士の家計簿—「加賀藩御算用者」の幕末維新 』 。シンガポールでの余暇は、奥様と二人で、散歩や幅広いジャンルの音楽・映画鑑賞を楽しんでいる。
 

シンガポール紀伊國屋書店本店
391 Orchard Road, #03-09/10/15,
Ngee Ann City Takashimaya Shopping Centre 238872
TEL:6737-5021
E-mail:SSO@kinokuniya.co.jp

391 Orchard Road Ngee Ann City Takashimaya Shopping Centre Singapore 238872

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