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法律相談

2015年11月2日

Q.2015年8月に雇用法改正の法案が可決され、2016年4月1日から雇用主に給与明細の発行など新たな義務が課されるそうですが、留意するべきポイントは?

経営者・人事担当者が知っておくべき、 最新雇用法改正のポイント

A:改正法により、雇用主には、①従業員に対する給与明細(Payslip)の発行義務、②雇用条件書(Written Key Terms of Employment)の提示義務、および③雇用記録(Employment Record)の保管義務が新たに課されることになります。その目的は、従業員・雇用主双方による雇用条件の正確な理解を促進し、労使間の紛争を防ぐことにあります。

 

 

Q:①給与明細の発行義務とは?

A: 雇用主は、雇用法が適法される全ての従業員に対して、法令に定める事項を記載した給与明細を発行・交付しなければなりません。
<主なポイント>
• 給与明細の必要記載事項は、雇用主氏名、従業員氏名、給与支払日、基本給の額、給与計算期間、手当その他の支払額、控除額、超過勤務時間および総支給額
• 給与明細は、紙媒体でも電子媒体でもよい
• 給与明細の発行は、最低月1回必要
• 給与支払から遅くとも3営業日以内に発行しなければならない

 

 

Q:②従業員に対する雇用条件書の提示義務とは?

A: 雇用主は、新たな雇用に際して、従業員に対して、雇用条件を書面で提示することが義務付けられます。
<主なポイント>
• 対象従業員は、(1)2016年4月1日以降に新たに雇用され、(2)雇用法の適用対象であり、かつ、(3)継続して14日以上雇用される従業員
• 雇用条件書の必要記載事項は、雇用主氏名、従業員氏名、役職および主な職務、雇用開始日、雇用期間、労働条件、給与計算期間、基本給その他手当、控除額、取得可能な休暇、医療給付、試用期間および解雇通知期限
• 雇用条件書は、紙媒体でも電子媒体でもよい
• 雇用開始から14日以内に当該従業員に対して交付しなくてはならない
• 複数の従業員に対して共通する雇用条件については、従業員ハンドブックまたは社内ネットへ掲示することで、個々の従業員への交付に代えることも可能

 

 

Q:③雇用記録の保管義務とは?

A: 雇用主は、雇用記録を一定期間、会社に保管しておくことが義務付けられます。
<主なポイント>
• 雇用記録とは、従業員記録(従業員の住所、NRIC番号、生年月日、性別、雇用開始日・終了日、勤務時間および休暇取得日を記載した記録)および給与明細をいう
• 雇用記録は、紙媒体でも電子媒体でもよい
• 保管期間は、2年間。退職者の雇用記録は、退職後1年間で足りる

 

 

Q:これらの義務違反のペナルティは?

A: 犯罪歴が残る「刑事罰」ではなく、違反の種類に応じて100~200Sドルの罰金を内容とする「行政罰」が科されます。もっとも、違反の是正がなされない場合には刑事罰の対象にもなり得ますのでご注意下さい。ただし、2016年4月1日の施行後1年間は猶予期間が与えられ、その間は人材開発庁(MOM)が雇用主に法令順守を促すにとどめるという方針です。

 

詳細は、人材開発庁(MOM)ウェブサイトをご参照下さい。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 高橋 宏行

 

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.291(2015年11月02日発行)」に掲載されたものです。

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