シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第8話:飛行機事故と補償

意外に知らない?日本の法律

2014年9月1日

第8話:飛行機事故と補償

マレーシア航空の事故を初めとして、今年は悲惨な飛行機の墜落事故が相次いでいます。アジアで活躍される皆様は、飛行機に乗って出張に出かけることなど、日常茶飯事でしょうから、航空事故のニュースは特に関心を寄せられているのではないでしょうか?
国境を越える旅客輸送として、最も利用されている飛行機の事故に対して、日本の国際線ではどのような保護が与えられ、東南アジアの国々の国際線との間に差はあるのでしょうか?
飛行機事故で損害を被った場合の補償は、「乗機する航空便に対して、いかなる条約が適用されるのか」によって、大きく異なります。
いわゆるモントリオール条約が適用される便の場合、旅客の死亡または傷害に対する責任には限度額が設けられておらず、無制限であり、かつ、約1,600万円までは、航空機上または乗降中に生じた事故であることのみを理由として、航空会社が補償する責任を負います。
また、航空会社側に「過失がなかったこと」を証明する責任を負わせており、これを立証できなければ、旅客は自らが被った損害の全ての補償を求める権利を有します。さらに旅客は、航空会社の所在する地の裁判所のみではなく、その旅客の住所地がモントリオール条約の締約国にあれば、その自己の住所地で裁判を起こすことができるのです。
一方で、モントリオール条約が適用されず、例えば別の条約である「改正ワルソー条約(ヘーグ議定書)」が適用される航空便に乗機した場合、補償は相当限られてしまいます。責任限度は、自主的に限度額を撤廃していない限り、原則として280万円に限定され、また、裁判も、航空会社の住所地や到着地などに限られ、旅客の住所地であることを理由として、その場所での裁判を起こすことは原則できません。
そこで重要なのはモントリオール条約の適用範囲です。同条約は「出発地と到着地が共にモントリオール条約の締約国である場合」に適用されます。ただし、国際線のみに適用される条約であるため、国内線には適用がありません。また、締約国から非締約国に移動しその後、締約国に戻ってくる往復のチケットで搭乗する場合にも適用がありますが、非締約国の片道チケットでの搭乗には適用がなくなります。なお、航空機や旅客の国籍に関わらないため、日本人であるか、日本の航空会社であるかも問われません。
例えば、シンガポールから日本やマレーシアへの出張のために、国際便を利用する場合は、シンガポール、マレーシア、日本のいずれもモントリオール条約の締約国であるため、この条約が適用されることとなります。しかし、例えばインドネシアの現地法人への出向や、長期出張の場合、インドネシアは非締約国であるため、シンガポールからインドネシアへの片道チケットによる航空便には、モントリオール条約は適用されません。また、同じく、例えばタイの現地法人の方がシンガポールまでの出張に来て、タイに帰国される往復便にも、タイはモントリオール条約の非締約国ですので、同条約の適用はありません。
よって、利用する航空会社の運送約款にて自主的に、責任限度額の撤廃がされていない場合、思わぬ低い損害しか賠償されないとの事態にもなりかねないのです。
格安航空会社が航空業界を席巻していますが、その格安チケットには、実は、モントリオール条約が適用されず、また、運送約款も旅客の保護に不十分であったとの事態が実際に生じても不思議ではありません。締約国のリストはインターネットで簡単に検索できますので、お時間があるときに一度下記ウェブサイトをチェックしてみて下さい。
国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization / ICAO)

 

今月の日本原風景

日本3大夜景の一つ、函館山から望む花火です。もうすぐ日本の夏が終わります。
(撮影地:函館、撮影:本間拓洋)

文=元シンガポール在住弁護士・ニューヨーク州弁護士 本間 拓洋(本間・辻村法律事務所

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.264(2014年09月01日発行)」に掲載されたものです。

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