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法律相談

2015年9月7日

Q.シンガポールの現地法人に駐在員を派遣する場合、事前にジョブバンク(シンガポール国籍者を対象とした公営の求人サイト)に人材募集の登録をしなければならないと聞きましたが、本当でしょうか。

人材募集の登録について

はい。2014年8月1日から、シンガポールの現地法人におけるシンガポール人以外の駐在員や現地採用スタッフのためにエンプロイメント・パス(EP)の申請をする場合は、原則として、事前にジョブバンクにて14日間以上の当該ポジションの募集をしなければならないとされました。そこで適切な人材が見つけられなかった場合に初めてシンガポール人以外の駐在員の出向や現地採用が可能になります。シンガポール人の雇用促進を目的とする、他の国にはあまり見られない制度です。

 

Q:それでは、日本の本社からの駐在員の出向や、日本人の現地採用の際には、常にジョブバンクに人材募集の登録をしなければならないのでしょうか?

A: いいえ、ジョブバンクの登録義務については、一定の限定や例外があり、これらに該当する場合には登録は不要になります。第1に、ジョブバンク登録義務の対象となるビザはEPに限られます。つまり、EP以外のSパスやワークパーミットといったビザの取得で足りる職務に関しては、ジョブバンクへの登録は不要です。第2に、人事省は、ジョブバンクへの人材募集登録義務が生じない例外的な場合を明らかにしています。これには、(1)小規模会社(従業員数25人以下の会社)、(2)短期間職務(雇用期間が1ヵ月以内の職務等)、(3)高給職務(給与及び手当ての合計額が月額12,000Sドル以上の職務)、(4)管理職または専門職の内部異動の場合、があります。(1)から(3)については基準が明確ですが、(4)の「管理職または専門職」については、どのような職務がこれらに該当するのか曖昧さが残ります。
当該ポジションの職務内容、権限、必要とされる知識・経験等の具体的な事情から、実質的に「管理職または専門職」に該当するかどうかが判断されることになります。

 

Q:ジョブバンクに登録し、資格や経歴において条件を満たしたシンガポール人の応募があったにもかかわらず、採用には至らずに結局日本からの駐在出向者をポジションに宛てたような場合に問題視されることはありますか?

A: 採用のプロセスと判断に合理的な理由が認められる限り、基本的には問題視されることはないものと思います。会社が人を採用する際、客観的に判定できる資格や経歴だけでなく、コミュニケーション能力その他の幅広い要素を考慮に入れざるを得ないことも人材開発省は認めており、会社の個々の採用決定の判断が適切であったかどうかを調査するようなことは基本的にしないことを明言しています。ただし、会社組織全体としてシンガポール人従業員の割合が極端に低い、採用が不公平であるとして繰り返しの苦情が持ち込まれる、といったような事情がある会社については、問題視される可能性が高まるようです。

 

Q:公正な採用がなされなかったと疑われた場合はどうなるのでしょうか?

A: まずは会社が人材開発省の調査対象になり、必要な情報の提供等を求められることになります。その上で、採用に不公正があったと認められた場合には、これを是正するための措置として、例えば、会社のホームページに一定期間謝罪掲載を義務付けられる、一定期間外国人の採用が禁止される等の制裁措置が科せられます。

 

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 田村 淳也

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.287(2015年09月07日発行)」に掲載されたものです。

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