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2013年3月18日

期限の設定には気をつけて

日本の商習慣では、何ごとをするにも工程表を作成し、期限を設定します。これは、ある意味ではシステマティックな事業/案件管理となり、事業の成功への基本的な活動といえます。ただし、注意しないと期限を守ろうとするあまり新規の事業内容を完全実施する方向に動かずに、期限厳守のみが前面に出て事業目的が損なわれることがあります。こんな例がありました。

 

 

日系企業と現地の企業が合弁企業を設立し、ある製品の製造を目指しました。日系企業担当者は合弁契約の策定にあたり、まず製造工場の竣工・生産開始日より逆算して合弁契約書の署名日を決め、現地企業との交渉を開始しました。日系企業が署名日を決めたのは、その当日にセレモニーを予定し、本社より社長もしくは担当役員をメインゲストとして呼ぶためでした。

 
日程が決まると、日系企業のプロジェクト責任者および契約の担当者は、予定日に向けて合弁契約の詰めを始めます。現地企業はと言えば、のらりくらりでなかなか内容の詰めが進展しません。そうこうするうちに署名日が近づき、プロジェクトの責任者は合弁契約書がまとまらず頭を抱えます。この辺りから現地企業の動きが活発となってきます。問題となっている何ヵ所かのポイントを整理し、現地企業側の希望を提示してきます。提示内容は、日系企業にとっては認めるのがかなり難しい条件です。ところが、署名のセレモニーを行う日が迫っています。しかも社長が来るのです。

 
プロジェクトの責任者は、かなり不利な条件で合弁契約書に署名する状況となりました。日程を決めたことにより、自らの首を絞めてしまうことになりました。

 

 

契約交渉をする際は、フリーハンド(自由裁量)を確保するために自分を縛る状況を設定することは極力避けるべきです。日程を予め決定する場合でも、条件交渉がまとまらなければ日程は変更される可能性がある、との社内の合意を得た上で着手すべきです。
また、契約交渉の開始にあたり、最低受け入れられる妥結点を設定して交渉に対応すべきです。現地パートナーにとっては、形式/体裁より利益がいくら上がるかが決定的なポイントです。儲からないプロジェクトには絶対署名しません。彼らは署名するための最低条件を確認しています。

 

 

付き合いが長い現地パートナーでも、状況次第では予想できない対応をしてくる場合が多々あります。日系企業で合弁の相手先である現地企業と長い付き合いがある場合、直接の合弁事業の成否よりも将来の事業をも勘案して関係維持に力点を置くことがこれまでは多々ありましたが、やはり当該合弁事業の成果に焦点を集中すべきでしょう。登山に例えれば、九合目まで登っても天候、体力次第では登頂をあきらめ、下山する勇気が必要です。

 
商売のパートナーはまだほかにいくらでもいるものです。

 

 

今月のスナップショット

ホート・パークにある人口の池と背景。当日は快晴で池の水面への背景の投影がくっきりと出ました。池の背景すべてを入れられなかったのがちょっと残念。(写真:丸茂 修)

文=ケルビンチア・パートナーシップ法律事務所・丸茂 修

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.230(2013年03月18日発行)」に掲載されたものです。

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