シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPナショナルスタッフをいかに戦力化するか

2013年9月16日

ナショナルスタッフをいかに戦力化するか

日本のある企業で新規プロジェクトを立ち上げることになった場合、プロジェクトマネジャーを選定し、“本プロジェクトをあなたに任せますので頼みます”と指示すれば、指示を受けた社員はこの短い指示の中にいろいろな意味が込められていることを十分に理解し、早速計画作りに取り掛かることになります。この指示には1)本プロジェクトをあなたに任せたので成功させてください、2)あなたは今までの実績から判断して当社の有能な社員なので目標を達成してくれるでしょう、3)日常の判断は自分でしてください、4)問題がある時は指示を仰いでください、5)定期的な報告はしてください、などなどが含まれています。
日本の企業で業務に就いた場合、ひとつの指示に10ぐらいの意味が含まれています。これが日本の企業文化でもあります。もちろん、日本人社員でも時として理解を誤る事があります。ただ、理解を間違えているなと思ったら、上司、同僚に確認できますので、重大な結果には至りません。

 

 

当地の多くの日系企業が、ナショナルスタッフを戦力化し、日本人社員を減らして現地法人の利益確保を目指しています。その際に必ず問題となるのが、ナショナルスタッフへの指示命令です。日本流の以心伝心が通用しないので、暗黙の了解事項をひとつひとつ全て懇切丁寧に伝えねばなりません。つまり、先に書いた10ほどの意味するところを根気良く説明せねばなりません。それもただ文書を渡すのではハッキリ理解してもらえず、直接話して伝える必要があります。また、ナショナルスタッフは対等の立場という考えが浸透しているので、単に指示を出しただけでは動きません。その理由を合理的に説明する必要があります。

 
文化や歴史、仕事に対する考え方が異なるため、説明の際には摩擦や衝突も起こります。しかしこの説明を避けたり、逃げたりしてしまうと、ナショナルスタッフへ日本流経営方法を伝授できなくなり、現地法人の現地人による経営の実現が遅れるだけでなく、経営の安定が遠ざかることになります。

 
当地の日系企業で勤務する日本人社員、とりわけ日本からの駐在員で現地法人の責任者もしくはある部門の責任者である場合は、ナショナルスタッフに対して自分の考えを自分の言葉で説明し、理解させる能力が不可欠です。本社の方針も自分で理解し、自分の言葉で語ることが重要です。秘書に翻訳させて社内回覧したり、掲示板に張り出すだけでは、ナショナルスタッフにはほとんど理解されません。これは言葉の問題というものでもなく、正しい思考と行動を、強い意志で粘り強く持続的に実行することです。

 
説明の内容は彼らにとって聞きなれない事項が多々あります。そこでQ&Aの時間となります。質問というより摩擦、衝突になっても、理解を得るまで説明します。日本人社員として、企業家/経営者の立場でナショナルスタッフに日本流の経営を理解してもらい、伝授していくのです。これにより現地法人のナショナルスタッフによる経営/運営が実現される素地が確立されていきます。

 

今月のスナップショット

トンボと赤いピーコックフラワーの花、青い空。三者のコントラストが気に入りました。 (写真:丸茂 修)

文=ケルビンチア・パートナーシップ法律事務所・丸茂 修

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.242(2013年09月16日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOPナショナルスタッフをいかに戦力化するか