シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP感性トレンド編〈第7回〉安保関連法案と新国立競技場

ビジネス4賢者が送る、成功への道しるべ

2015年8月3日

感性トレンド編〈第7回〉安保関連法案と新国立競技場

自分を中心にしたい時代から社会を中心にしたい時代へと人の気分が変わり、「日本国民のために」とか、「日本のために」「地域のために」という意識が出てきます。同じことをやるにしても、「私自身のために」とか「私の夢」という表現ではなく、「私の使命」と言うほうが、聞く人の好感度も高く、自分も意見を強く言いやすい感じになってきていませんか?

 

 

日本の国会では、「日本国民のために」という思いは1つなのに、意見の分かれる大問題が出ています。それは、「安保関連法案」です。「安保関連法案」は、7月16日午後の衆議院本会議で、自民、公明などの賛成多数で可決されました。参議院で否決されても衆院の3分の2以上の賛成で再可決・成立させる憲法の「60日ルール」が適用されれば、9月14日以降に成立になる見通しだそうです。
世論調査によると、安全保障関連法案への賛否は、「賛成」26%、「反対」56%(朝日新聞7月11日、12日)、「賛成」27.8%、「反対」58.7%(共同通信6月20日、21日)、「賛成」29%、「反対」58%(毎日新聞7月4日、5日)。反対が過半数を超えており、国会周辺でデモは起きているものの、60年安保ほどの規模ではありません。

 

人の感性の変化では、社会性が強くなる時期に入ったので、自分の命の心配より、国の心配をして「日本のために」とデモを起こしたくなるのです。気分は同じになるのですが、技術や環境が56年前とは違うので、当時と全く同じにはなりません。それでも、人の気持ちの方向は予測できるのです。今回のデモは、56年前と比べると圧倒的に情報量が多く、各自がその情報で判断した結果なのだろうと思います。
ただ、民衆の気持ちが政治家を選んでいることも時代を読むポイントとして重要です。私たちは首相を直接選ぶわけではありませんが、56年前の首相は現在の安倍首相のお祖父さんである岸信介首相です。お祖父さんと同じように反対意見が多い安全保障の法案を通すことに安倍首相がなるというのも、感性の波の表れだろうと思います。

 

さて、世論調査では安全保障関連法案の反対よりも、更に反対の声が多い「新国立競技場」も感性の変化を見るのにもってこいです。まず、建設に2,520億円かかると言われているデザインは、複雑なものから単純なものへと好感度が移りはじめた時期に表れる尖りを持った形。2008年に開催された北京オリンピックの「鳥の巣」と呼ばれる競技場と比べると、はるかにシンプルで、それでいてオリジナリティを感じさせるデザインだと思います。計画は白紙になりましたが、2020年の東京オリンピックに向けて、日本の技術力を世界にアピールしたいという思いが、実現するのに費用のかかるデザインをあえて選んでしまったのかもしれません。2020年からちょうど56年前にあたる1964年の東京オリンピックで、世界に日本の建築をアピールしたように。

 

前回の東京オリンピックの国立代々木競技場は、戦後の日本を代表する名建築として高く評価されています。みなさんは、国立代々木競技場をご覧になったことがありますか?それまでの建築にはないようなモダンさと神社の屋根の千木のような伝統的な造形が融合しています。1964年当時と似て、今から2026年までは、革新と伝統のどちらもが好ましい時代です。

手塚 祐基(てづか ゆき)

tedzuka株式会社感性リサーチ研究員、倉敷芸術科学大学芸術学部非常勤講師
21年間の腕時計デザイナーを経て、2006年より感性研究を開始。現在、ネーミングコンサルティングや企業向け講演活動を行う。筑波大学、工学院大学、東京大学大学院情報学環などのゲスト講師も務める。共著『人は語感でいい・悪いを決める』KAWADE夢文庫

ウェブサイト:ameblo.jp/tetsuka-kansei/

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.285(2015年08月03日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP感性トレンド編〈第7回〉安保関連法案と新国立競技場