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来星記念インタビュー

2015年7月20日

「自然に開かれた建築を考える」 -ガーデンシティにおける建築家の役割-

―建国50年を迎えるこれまでのシンガポールのまちづくりを振り返っての感想と、今後発展していくために必要な視点を教えてください。

シンガポールは、緑もとてもよく整備されているし、建築も非常にクオリティが高いと思うんです。ただ、建築は建築で、非常に閉じた人口環境を作りがち、緑は緑で、ランドスケープ(風景)としての緑になりがちなように見えます。それを、建築は自然環境に向かって開いていくし、緑も建築に向かって入り込んでいくような、そういう相互作用していく関係がもっと生まれてほしいなということを強く思います。そうすることによって、そこに暮らしている人々やそこで働いている人々も、より生き生きとしてくるように思うんですね。

 

―オフィスで働いていて近くに緑があるのと、山に行けば緑がある、というのは全然違いますね。

そうですね。外に出てみるとシンガポールって結構、アジア的な風景がありますよね。例えば先ほどお話ししたキャピタグリーンも、すぐ近くにラオパサ・フェスティバルマーケットがあります。ああいうところ、僕は大好きなんですが、そうしたアジアの伝統に繋がっているような場所と、新しい建物とが連続するようになれば、もっと楽しい街になるような気がしますね。

 

―最近、力を入れているプロジェクトを教えてください。

瀬戸内海に大三島(おおみしま)というところがあるんですが、僕の建築ミュージアムが建てられた縁で、この島を元気にしていくプロジェクトをやっています。人口6,000人のうち半数以上が65歳以上のこの島で、昔から島に住んでいる人と若い人とを結びつけるコミュニティ作りや、自然エネルギーを最大限に生かした建築作りに取り組んでいます。”みんなの家”と同じように皆さんから協賛をいただいて、少しずつ島の方々と一緒になって作っていくという手作りのプロジェクトで、大変ですが楽しいです。大企業中心のアートを軸とした島作りではなく、これからの島民のライフスタイルの根幹になっていく、島の人と一緒になって作っていくような島作りをやりたいと思っています。

 

―最後にAsiaX読者へのメッセージをお願いします。

シンガポールはすごく住みやすくていいところだと思いますし、食べ物もおいしいし、安全な街でもあるし、僕も大好きです。この元気をどうにかして東京にも広げていただきたいですね。今の東京は、高層ビルはいっぱい建っているけれども、元気がないですよ。ちょっと、シンガポールに負けてるなって感じが……(笑)。ここでの暮らし方をヒントに、シンガポールが持っているようなエネルギーをどうやったら東京に取り戻すことができるのか、ということをぜひみんなで一緒に考えなくちゃいけないな、っていうのが僕のメッセージですかね。

 


 

Singapore International Festival of Arts(SIFA)
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1977年にスタートし、隔年で開催されている芸術祭。シンガポール芸術委員会(NAC)
の委託によりArts House Limitedにより運営されている。今年のテーマは「ポストエンパイア(POST-Empires)」。植民地体制や独裁政権を経た国々におけるグローバル化に焦点を当てる。8月6日(木)から9月19日(土)まで開催。詳細はWebサイトhttp://www.sifa.sg/にて。

 

 

 

伊東 豊雄(いとう とよお)

1941年生まれ、建築家。1965年東京大学工学部建築学科卒業。伊東豊雄建築設計事務所代表。「せんだいメディアテーク」「トッズ表参道店」「VivoCity」など、周辺環境との関係性を探求する革新的な建築で知られる。2006年王立英国建築家協会ロイヤル・ゴールドメダル、2013年プリツカー賞など受賞歴多数。

2015年7月20日
取材・文=門前 杏里

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